無症状の大動脈弁狭窄症
Asymptomatic Aortic Stenosis
Eugene Braunwald
Brigham and Woman's Hospital
Boston, MA, USA

症状のない大動脈弁狭窄症患者の管理は臨床的にとても難しい。高度の狭窄を持たない患者については、1年か2年に1回、病状の経過を評価すればよい。しかしながら、患者の狭窄が高度であれば、その患者は高危険群にあるかもしれず、さらに将来大動脈弁置換術を考慮する必要が出てくるかもしれない。

高度な狭窄を持つ無症状の大動脈弁狭窄症患者が、冠動脈バイパス術などの他の心臓外科手術を受ける場合、現在のガイドラインでは大動脈弁置換術の実施を支持する。米国心臓病協会/米国心臓病学会は協同で1998年にこれら大動脈弁狭窄症に対するガイドラインを発表した。

この疾患についてはさらに、医師はこの疾患の自然歴を考慮しなくてはいけない。最近、臨床的に症状のない大動脈弁狭窄症患者のうち、ごく短期間で症状が出現する高危険群を同定しようと試みた報告がいくつか発表されてきている。

たとえば、大動脈弁における血流ジェット速度の増加率は、ひとつの臨床予後の予知因子となる。心臓超音波試験上での弁石灰化の重症度も、症状なく生存しうる患者を予知するひとつの重要な決め手である。

これらの所見やその他の所見に基づいて、どの患者に早期に大動脈弁置換術を実施すべきなのか、臨床医は判断できる。主要な手段は、頻回に実施する診察と運動耐容能試験、そして心臓超音波試験である。

Braunwald博士は、高度な狭窄を有する無症状の大動脈弁狭窄症患者を管理するための一連の手段を示した。

* どのような種類にせよ心臓手術を予定している患者については、術前に大動脈弁の評価をし終えているべきである。

* もしまだであれば、医師は慎重な監視のもとに、運動耐容能試験を実施する。
運動耐容能試験で低血圧や症状出現を認めれば、その患者にはまず大動脈弁置換術を実施すべきである。もし試験結果が陰性であれば、次の段階へ進めばよい。

* 高度な石灰化弁を有し、かつ大動脈弁における血流ジェット速度が増加している場合、その患者は大動脈弁置換術をかなり前向きに考慮すべきであると、博士は言った。しかしこれらの危険因子のどちらか一方がない場合は、医師は当面、診察と6ヵ月ごとの運動耐容能試験を予定することによって、臨床経過をみることが可能である。

きわめておもしろいことに、将来スタチンが大動脈弁狭窄症の進展を阻止する可能性がある。 Novano博士らは、2001年10月30日号のCirculation誌でこの可能性を発表した。この報告は初めて、この重要な弁異常が内科的治療に反応するということを示唆した。


レポーター:Andrew Bowser
日本語監訳:京都大学医学研究科循環病態学 金井恵理