東洋:Lee博士は、韓国において糖尿病の罹患率が爆発的に増加しており、それに伴い冠動脈疾患による死亡率が増加している、と発言した。韓国における現行のインターベンション治療は前ステント時代とステント時代から得られたPCIの治験データに基づいて施行されている。Korean
Multicenter Revascularization Registryの目的は、最近の2枝あるいは3枝疾患に対する予定治療の症例から30日間、1、2、3年間の予後のデータを集積することである。
1995年1月から2000年12月の間に、9施設において総計3,279人の症例が登録された。PCI群とCABG群で患者背景に差は認めなかった。PCI群の68%においてステント留置が施行されていた。CABG群のほとんど全ての症例で(92%)動脈グラフトが使用されていた。糖尿病患者の比率は両群で同程度であった(PCI群の31%、CABG群の35%)。
データ解析の結果、30日間と3年間の死亡率は両群でほぼ同程度であった。短期間の罹患率と死亡率は、幾分CABG群で高かったが、主に脳血管系のイベントによるものであった。しかしながら、3年間のイベントフリーの生存率は、PCI群よりCABG群で良好であった。これは、CABG群の方で血行再建率が大きかったことに起因していると思われる。
データを患者のタイプ(すなわち糖尿病患者か、非糖尿病患者か)によって分析してみると、PCI群内では糖尿病患者の方が非糖尿病患者よりも3年間の死亡率が高かった。一方、CABG群内では糖尿病患者と非糖尿病患者の間に差を認めなかった。なお血行再建率については、治療手技(PCIかCABGか)にかかわらず、非糖尿病患者群と比較して糖尿病患者群においてより高かった。
PCI群では、非糖尿病患者についてはステントを使用した患者の方がステントを使用しなかった患者よりも予後が良かった。しかしながら、糖尿病患者については、ステントの使用、不使用による差を認めなかった。当然のことながらCABG群においては、糖尿病患者と非糖尿病患者間にステント使用に関する区分は存在しなかった。
全般的に、PCIよりもCABGの方が、血行再建率の点では優れており、特に糖尿病患者においては優位性が顕著であると、博士は述べている。PCIを施行された患者群では、血行再建治療が再度必要になる可能性が大きく、とりわけ糖尿病患者の場合に著明であった。
生存率という観点からは、冠動脈疾患患者全体に対しても、糖尿病のある冠動脈疾患患者に対しても、PCI群とCABG群の間に大差はない、と博士は結論した。博士は、今後の解析から、ステント留置術の寄与によって、PCIがCABGと同等、あるいはそれに勝る治療法であることが判明するかもしれない、と発言した。
西洋:Frye博士は、シンポジウムのタイトルに応じた以下のような問題を挙げて講演の口火を切った。
1) なぜ我々は、あたかもPCIとCABGがコンテストの競演者のごとく、「versus」といったものの見方をし続けるのか?
2) いかにして我々は、糖尿病に関連した悪い予後を良い方向に引き戻し得るか?糖尿病患者の急性心筋梗塞の管理を改良したり、動脈グラフトを使用することで、現時点では明らかではない治療上の好機を獲得し得るか?血糖値の管理方法(インスリン療法か、インスリン感受性の増強か)をより深く追求することで治療の好機を得ることが可能か?
3)循環器医はいかなるタイミングで糖尿病患者の治療に介入するべきか?とりわけ糖尿病患者で心血管系の症状が無いかあるいはあってもごく軽度の場合はどうか?
博士は、治療手技の比較に関して、ステントを使用しないPCIを受けた糖尿病患者は、動脈グラフトを用いたCABGを受けた糖尿病患者と比較して予後が悪いということを示したいくつかの治験からの所見を引用した。また、ステント留置術を含む最近の治験でさえ、CABGを受けた糖尿病患者の方が予後が良いことを強調した。それ故、博士は、重篤な冠動脈疾患を伴った糖尿病患者に対しては、CABGが(PCIと比較して)より優れた治療法であると結論づけた。
博士は、糖尿病患者の悪い予後をいかに改善するかという問題への照準は、いかなる血行再建術を行うかという点よりも、むしろ患者の糖尿病の内科的な管理をいかに行うかという点に向けられるべきであると確信している。博士は、特に危険因子のコントロールをより良くすることで、糖尿病患者に恩恵がもたらされ得ることを指摘した;一例として、血圧を130/80以下に維持することが予後を改善するという知見について言及した。また、体重管理、血糖管理といった因子や、ACE阻害剤といった薬物療法に対して、より強力にアプローチすることに治療の好機を見出せるかもしれない、と述べた。博士は、自身の見解を支持する知見としてUKPDS
studyから得られた結果、特に積極的な血圧管理を行うことで脳卒中と心不全の発生率が有意に低下するという所見を示した。
急性心筋梗塞の糖尿病患者や、現在、予定された血行再建治療をすすめている糖尿病患者について、もっと注意を向けるべきと博士が確信しているもう一つの領域は、糖尿病そのものの内科的治療である。
急性心筋梗塞の糖尿病患者のうち、糖尿病について通常の内科的治療を行った患者よりも、24時間のインスリン持続投与を行い、その後インスリンの皮下注射に切り替えた患者の方が、1年後の死亡率が有意に低かったことが、ある治験で明らかになった。
急性心筋梗塞の糖尿病患者において、初期の血行再建治療の手技(PCIかCABG)にかかわらず、異常Q波を伴う梗塞の率はほぼ同程度であったが、死亡率は顕著な差を認めた。つまり動脈グラフトを設置した場合の死亡率が17%であったのに対し、それ以上の血行再建を追加しなかった場合の死亡率は80%であった。
博士は、予後を改善するという意味において、予定された血行再建治療後により強力なインスリン治療を考慮するべきかどうかという疑問を提示した。また、糖尿病患者の心筋梗塞後の院内死亡率は、インスリン治療を受けている患者よりもスルホニルウレア剤の投与を受けている患者の方が高いという観察的治験の結果を示した。このことから、博士は、血糖管理が、インスリン投与で行われるか、あるいはインスリン感受性の強化で行われるかで差が生じるかどうかという問題を提起した。
博士の最後の論題は、心血管疾患による死亡率の全体的減少に対し、タイプ2の糖尿病患者における心血管疾患による死亡率が増加していることについてであった。博士は、糖尿病患者において早期の血行再建治療は死亡率を低下させ得るのか、という問題を提起した。
最近の治験(Berry 2)では、まさにそういった疑問に対する比較項目が設定されている:第一に、急性心筋梗塞の糖尿病患者において速やかな血行再建とより強力な内科的治療を行った場合、通常の内科的治療と比較して5年間の死亡率に差が生じるかどうか?第二に、血糖管理をインスリン投与で行った場合と、インスリン感受性の増強で行った場合で予後に差を生じるかどうか、である。
循環器医は治験の結果を待つ間にも、自分の糖尿病患者を守る観点から持ち得る知見をできるかぎり強力に適用することによって、患者の予後を変え得る、と博士は述べ講演を締めくくった。
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