心筋梗塞のような冠動脈イベントの経験のある患者のおよそ半数は、肥満、高血圧、あるいはLDLコレステロールの上昇などの古典的な危険因子をもっていない。したがって、見かけ上、正常と思われる者の中に冠動脈疾患(CHD)のリスクを検出する新たな方法の開発に大きな興味がもたれている。これらの者はスタチン治療によって恩恵を受けるはずである。
最近、LDLコレステロールが低値である場合にも、CHDのリスクが高い患者を確認する方法として、hs-CRPを測定することが勧められている。Lp-PLA2も、コレステロールが正常であるにもかかわらずCHDのリスクを有する患者を識別するために役立つもう一つの有用な生物指標と考えられている。以前にLp-PLA2は心臓イベントの新しい危険因子であることが示された。ある重要な試験で、Lp-PLA2の値が最も高い患者で冠動脈イベントの発生はこの酵素レベルが最も低い患者の2倍であることが認められた。
Ballantyne博士はCHDにおけるLp-PLA2の役割について報告した。内膜において、Lp-PLA2は酸化LDLを加水分解してリゾホスファチジルコリンと酸化脂肪酸を産生する。これらの炎症のメディエーターは接着分子をアップレギュレートし、サイトカインを産生して、血管内腔から単球を動員する。単球は活性化されたマクロファージに分化して酸化LDLを呑食する。その結果生じた細胞は集合して動脈硬化性プラークを形成する。さらにそれがサイトカインを産生して平滑筋細胞と線維性capを傷害する。

この試験の目的は、Lp-PLA2、hs-CRP、古典的危険因子、および6年間のCHDイベントの発生頻度を比較するものである。この前向きケース−コホート試験はAtherosclerosis
Risk in Communities(地域社会における動脈硬化症のリスク:ARIC)試験に登録された患者を対象とした。現在進行中のARIC試験には米国で一見正常と思われる中年者、12,819人が登録されている。この中から、CHDの既往のある609例と無作為に741例の対照者が選ばれた。
この試験では特別なアッセイによって血漿と動脈プラーク内に存在する酵素Lp-PLA2の血清レベルが測定された。このアッセイは生物工学の会社diaDexusが開発したもので、試験も同社からの援助によって行われた。
予期された通り、CHDの既往のある609例の患者では、LDLコレステロール、トリグリセライド、および総コレステロールの値がコントロールに比して有意に高かった。HDLコレステロールはより低値で血圧はより高かった。さらに、これらの患者ではhs-CRPとLp-PLA2のレベルも上昇していた。
過去の試験ですでに明らかにされているように、Lp-PLA2はLDLコレステロールと正の相関を、HDLコレステロールとは負の相関を示した。Lp-PLA2と血圧やhs-CRP値との間には相関がみられなかった。
年齢、性、および人種に対して補正した場合、CHDの最も大きなリスクはLp-PLA2値が高い方の上から3分の1グループでみられた(相対的リスクは中3分の1のグループの1.02に対して1.16)。LDLコレステロールが130mg/dL以下のグループに関してのみ、他の多くの危険因子に対して補正したリスクも有意であった(上3分の1で2.02に対して中3分の1で1.81)。hs-CRPに対しても補正が行われたが、モデルによる差はみられず2つのファクターはお互いに独立したものであることが示唆された。
Lp-PLA2とhs-CRPの両者を一緒に用いてCHDのリスクをもつ者を層別化することができる。Ballantyne博士の解析によるとLp-PLA2とhs-CRPの値が共に高値を示す患者ではCHDのリスク比が最も高いことになる。

これらの結果に基づいてスタチン治療の標的となる患者群が選別される。博士はHeart Protection Study(心臓保護試験)でLDLレベルが正常値を示す患者においてもスタチン治療によってCHDのリスクが減少することが示されたことに触れた。今回のACCで、Anglo-Scandinavian
Cardiac Outcomes Trial(Anglo-Scandinavianにおける心臓予後試験:ASCOT)によっても同様の結果が報告された。Lp-PLA2とhs-CRPに関するデータには期待されるところが大きいが、専門委員会ではガイドラインを書き直すまでに至るにはさらにしっかりした確証が要求されるであろう、と博士は語った。
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