Anglo-Scandinavianにおける心臓予後試験(ASCOT試験):高血圧患者の脂質低下療法による有病率−死亡率の変化
The Anglo-Scandinavian Cardiac Outcomes Trial: Morbidity-Mortality Outcome from Lipid-Lowering in a Hypertensive Population
Peter S. Sever
Imperial College of London
London, England

高血圧治療に関してまだ解決されていない重要な問題の一つは冠動脈疾患(CHD)のリスクの上昇に関するものである。高血圧患者は脂質異常を示す者が多いが、脂質異常を有するとは考えられない患者も多い。今日まで、主要な臨床試験で、高血圧患者で脂質異常を合併していない場合に脂質低下療法がCHDの発生にどのような影響を与えるかについて検討されたことはない。

Anglo-Scandinavian Cardiac Outcomes Trial(Anglo-Scandinavianにおける心臓予後試験:ASCOT)はコレステロールレベルが正常ないし軽度の上昇に止まっている高血圧患者でコレステロール低下療法の役割を検討した無作為対照試験である。参加施設はスカンジナビアの国々における700に上る一般診療所と英国における32の地域センターである。

試験にはおよそ20,000例に及ぶ高血圧患者が登録された。これらの患者にはβ遮断薬と利尿薬、あるいはカルシウム拮抗薬とACE阻害薬の2つの降圧治療のうちどちらかが行われた。

さらに、10,305例の患者では第2部の試験が行われた。これらの患者はすべて総コレステロールレベルが250mg/dL以下であった。米国とヨーロッパの最近の治療ガイドラインによると250mg/dLという値は正常または軽度上昇と考えられる。患者はアトロバスタチン 10mgあるいはプラセボ群に割り付けられた。この第2部の試験はlipid lowering arm of the trial(脂質低下検討群)と呼ばれる。

Lipid lowering armの主要エンドポイントは非致死的心筋梗塞あるいは致死的CHDであった。このエンドポイントに関しては、プラセボに対して30%の相対的効果が期待された。

Lipid lowering armに登録された患者は81%が男性で、平均年齢は63歳であった。すべての患者が高血圧を有し、少なくとも他に3つのCHDの危険因子をもっていた。安全モニタリング委員会は主要エンドポイントの軽減が達成されたという理由で早期に試験の中止を勧告した。その結果、追跡期間の中間値は3.3年間であった。

解析によると、アトロバスタチン群とコントロールのプラセボ群両者で血圧のコントロールは非常に良好であった。血圧はベースラインの164/95mmHgから追跡期間中に138/80mmHgに低下した。総コレステロールは、ベースラインではアトロバスタチン群とプラセボ群で差がなかったが、3.3年目にはアトロバスタチン群で1.1mmol/L低いという有利な差がみられた。

主要エンドポイントの解析では非致死的心筋梗塞と致死的CHDが3.3年目にアトロバスタチン群で36%減少したことが示された。アトロバスタチン群とプラセボ群の差は他の主要スタチン試験でみられたものより早期に出現した。

さらに、致死的および非致死的脳卒中(27%、p=0.0236)、すべての心血管系イベントと治療の追加(21%、p=0.0005)、すべての冠動脈イベント(29%、p=0.005)にも有意な減少がみられたと報告された。総死亡の減少に関してはアトロバスタチン群に有利な傾向がみられたが統計的な有意差には達しなかった。

前もっていくつかのサブグループ解析が設定してあったが、経過に関して全体の成績との差はみられなかった。このことは高血圧治療におけるアトロバスタチンの有効性は、糖尿病患者、喫煙者、肥満である者、あるいは腎機能障害を有する患者など多くのサブグループ患者に適応できることを示唆するものである。

安全性の解析では、アトロバスタチン群とプラセボ群の間で、致死的癌、重症有害事象、あるいは肝酵素異常等に有意な差はみられなかった。アトロバスタチン群で横紋筋融解症が1例みられたが、この患者は最近熱性疾患に罹患した重症アルコール中毒患者であった。

この試験でみられた主要心臓有害事象の減少は追跡を始めて比較的早期から認められたことから、著明で注目に値するものと考えられる。もし中間値で5年の追跡が続けられたとするとCHDイベントの減少は50%に上ったと推測される。

さらに、スタチンの有効性は多くの他のスタチン試験に比してはるかに早くから出現した。早期の有効性はスタチンの脂質低下作用によるものか、あるいはこれまでに得られた多くのエビデンスが示すようにLDLコレステロールが早期に低下したことがこの効果に影響を及ぼしたのかは明らかでない。

循環器専門家は新しい治療を抗高血圧戦略に実践するという挑戦を行っている。すでに多くの患者で、コントロール不良である高血圧でも改善が期待できる。コントロールが不十分である理由として、一部には有効である可能性がある治療法を追従していないことや、積極的な降圧療法が行われていないことが挙げられる。しかし、この試験からは高血圧患者におけるCHDの一次予防に有効である可能性をもつ薬物としてスタチンを除外してはいけないことが示唆される。