慢性心不全患者におけるアンジオテンシン変換酵素およびレニンの再上昇に対するカルベジロールの有効性
Beneficial Effects of Carvedilol on Angiotensin-Converting Enzyme and Renin Escapes in Patients with Chronic Heart Failure
Alain Cohen-Solal
Hopital Beaujon, Clichy, France
カルベジロールは、心不全においていくつかの段階で交感神経系を抑制する。アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)は軽症から重症まで様々な段階の心不全治療に有効であることが明らかにされており、近年、心不全治療の標準薬として用いられてきた。しかし、長期にACE阻害薬を投与されている患者では、いわゆるエスケープ現象(アンジオテンシンIIやアルドステロンの再上昇)が生じることが報告されている。これは、薬理学的耐性、心不全の進行、あるいはレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の複雑な機構に関連して生じると考えられる。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の複雑さについて言えば、ACE阻害薬によってアンジオテンシンIからアンジオテンシンIIへの変換を阻害しても、レニン活性上昇による全ての傷害作用を防止できるとは限らない。エスケープ現象はACE蛋白のある特定のタイプに関連して生じることがある。本日、Cohen-Solal博士は、カルベジロールの抗酸化作用を評価しようとして行われた大規模臨床試験で得られた一部のサブグループ解析の結果を報告した。本成績の一部は、本学会の他のセッションや昨年のAHA学術集会でも報告された。本報告は、心不全患者に生じるレニン・エスケープ現象に対するカルベジロールの有効性に焦点を当てたものである。
本研究は、NYHAIIないしIII度で、左室駆出率が40%以下であり、利尿薬およびACE阻害薬と、必要であればジゴキシン治療を受けていた安定した心不全患者50例を対象に実施された。患者は二重盲検法にてプラセボあるいはカルベジロールに割り付けられ、6ヵ月治療を受けた。プラセボ投与群ではレニン活性とACE活性が上昇したのに対し、カルベジロール投与群では両者とも減少した。すなわち、プラセボ群ではACE阻害薬投与中にレニン活性とACE活性が上昇したので、エスケープ現象が生じた。しかし、カルベジロールはこのエスケープ現象を抑制した。アルドステロン値は両群ともに不変であったので、アルドステロンのエスケープ現象はβ遮断薬により影響されなかった。さらに、左室駆出率やNYHA機能分類の明らかな改善にもかかわらず、測定された他の神経体液性因子はカルベジロールにより影響されなかった。
Cohen-Solal博士は次のように結論づけた:「心不全治療におけるカルベジロールの著明な有用性は、レニン・アンジオテンシン系のより完全で継続した抑制に一部基づくものかも知れない。現時点では、カルベジロールの心不全治療における有用性が、どの程度レニン・アンジオテンシン系の抑制によるものかはわからない。この点についてより多くの知見が得られ、また神経体液性因子抑制のための治療における選択巾が拡がった時には、できるだけ少ない薬剤で最大の治療効果を得る手段として、このカルベジロールのレニン・アンジオテンシン系の抑制作用が有用になるかもしれない。」
レポーター:Andre Weinberger, MD
日本語翻訳・監修:九州大学大学院医学研究院循環器内科学教授 竹下 彰
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