高齢者の心筋梗塞に対してより積極的な治療を行っていよいか?
Is More Aggressive Management of Acute Myocardial Infarction in the Elderly Justified?
Lars Wallentin
Uppsala University Hospital, Uppsala, Sweden
Wallentin博士は高齢の急性心筋梗塞患者における侵襲的な再灌流療法の安全性と適応について、循環器専門医の間に議論が続いていることから述べ始めた。確かに高齢患者では、明らかに心筋梗塞や脳卒中、死亡などの心臓血管事故のリスクが高いが、再灌流療法が一般的に冠動脈患者に有効なことは衆知の事実である。重要な疑問は、積極的な再灌流療法の利点が合併症のリスクに優るかどうか、また高齢者ではこのような治療法の合併症率が高いかどうかである。
Wallentin博士によると、この問題を検討するにあたって困難なことの一つは、スエーデンや他の先進国では急性心筋梗塞患者の中間年齢が72歳に達することである。従って、心筋梗塞患者の約40%が75歳以上になる。それに対して、血栓溶解療法や他の再灌流療法が施行される例の中間年齢は61歳にすぎないため、高齢者における安全性と効果については非常に僅かのデータしかないことである。年齢が臨床成績において非常に重要なことは明らかである。Wallentin博士は、スエーデンの患者登録制度からの成績を引用して次のように述べている。「年間死亡率は60〜69歳では10%であり、70〜79歳では23%、80歳以上では44%である。従って、この数値は日常臨床で経験する死亡率と変わりがない。」
Wallentin博士が指摘している加齢と共に死亡率が高値になるという重要な問題は、「これが、加齢による自然現象なのか、治療によって改善したのか」ということである。このような疑問に答えるために、Wallentin博士はCCUに入室した患者で、心筋梗塞を有していた患者の死亡率は心筋梗塞を有しなかった患者に比べてはるかに高値である点を挙げている。従って、心電図上でST上昇や左脚ブロックを有する患者に血栓溶解療法を施行すれば、新生血栓を溶解し、梗塞の発症を減少できると考えられる。死亡率の増加は、虚血の発症よりもむしろ梗塞の発症に関係するため、再灌流療法を行うことにより高齢者の死亡率が減少すると期待できる。
いくつかの大規模臨床試験においても、この治療法の有効性は支持されている。ISIS-2試験において70歳以上の高齢者で死亡率が高いが、再灌流療法により生存率の絶対値は改善している。すなわち、若年者1,000人において23人生存者が増加し、高齢者では41人の生存が増加する。FTT試験では、ST上昇と左脚ブロックを示した高齢者を含めているが、治療により1,000人につき生存者が34人増加した。GUSTO-I試験においても同様の効果が、若年者と同じく高齢者でもみられた。GUSTO-II試験では、血栓溶解療法に比べて血管形成術が明らかに良好な成績を示したが、高齢者と若年者でその効果に差は認められなかった。
今回初めて発表されたスエーデンの登録データにおける前向きにエントリーされた1,550人の成績では、75歳以上のST上昇と左脚ブロックを示した症例に血栓溶解療法を施行すると、生存率が相対的に10%(35%対39%)改善した。この結果は脳出血の死亡率とリスクをも考慮したものである。同様の成績はドイツの集計でも報告されている。以上の結果より、Wallentin博士は「なぜ高齢者がゆえに再灌流療法を躊躇するのであろうか?」と疑問を投げかけて講演を終えた。
レポーター:Andre Weinberger, MD
日本語翻訳・監修:大阪赤十字病院副院長兼心臓血管センター所長 神原啓文
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