拡張不全とはどのような病態をいうか、そしていかにそれを治療するべきか?
What is Diastolic Heart Failure and How Should I Treat it?
William H. Gaasch
Lahey Clinic, Burlington, Vermont, USA

Dr. Gaaschは非常に印象的なスライドを提示した。左側のスライドには、左室収縮機能障害に基づく心不全患者の治療に関する、約20の大規模無作為二重盲検試験がリストアップされている。しかし右側のスライドには、「拡張機能不全」の見出しはあるが、その下は空白のみである。実際、医学文献や医師の間では、この問題《拡張機能不全の大規模試験がまったくないこと》に対してあまり注意が払われていない。次にDr. Gaaschは、European Cardiology Society(ヨーロッパ心臓協会)の拡張機能不全に基づく心不全の定義を示した。この定義によれば、以下の三つすべてが存在することが必要である:(1)うっ血性心不全の症状と徴候、(2)駆出率が正常、またはごく軽度の異常《低下》、(3)拡張機能異常の証拠。
 
Dr. Gaaschは彼の所属するLahey Clinicで同僚と行った研究について解説した。彼らは心エコーと心臓カテーテルの相関についての研究を行い、左室容積および駆出率が正常で、左室壁厚の増加の所見を有する―つまり左室肥大のある―うっ血性心不全患者63人において両方の検査を施行した。そしてこれらの患者で左室充満圧の異常《上昇》と、《心臓カテーテルで測定した左室圧から算出した》左室等容弛緩時間の延長、および《心エコーで測定した拡張早期流入速度の》減衰時間の延長の有無を調べた。結局すべての患者が拡張機能異常を有しており、94%は少なくとも一つの左室圧指標と一つの心エコー指標の両者の異常を有していた。Dr. Gaaschは、「左室肥大と正常の駆出率を有するうっ血性心不全患者においては、拡張不全の診断は心臓カテーテルを行わなくても心エコーによる拡張機能異常を明らかにすることによって十分行いうる」と結論づけた。
 
Dr. Gaaschは次に、二つのそれぞれ約20名程度の患者を対象とした、拡張機能障害に起因する心不全の治療に関する非常に小規模の臨床試験について話した。そのうち一つではベラパミルを、もう一つではロサルタンを用いている。これらの試験の結果、運動能力とQOL(quality of life)の改善および、拡張不全スコアの低下が得られた。さらに二つの治療試験が現在進行中で一つはカンデサルタン、もう一つはペリンドプリルについて検証している。Dr. Gaaschは次のように結んだ。「これら拡張不全の患者では、明らかに高血圧性左室肥大が心不全の主要な基礎原因であると考えられるので、高血圧を治療せよ。しかし患者が心不全症状を訴えるならば、原因疾患云々はさておいて、まずこれらの症状を治療せよ。そして患者が冠動脈疾患を有するならば、患者は血行再建を受けるべきで、高血圧性心疾患があるならば、高血圧を治療するべきである。」

レポーター:Andre Weinberger, MD
日本語翻訳・監修:虎の門病院循環器センター部長 百村伸一


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