病態生理--炎症、プラーク破裂、血栓の役割
Pathophysiology - Role of Inflammation, Plaque Disruption and Thrombosis
Prediman K. Shah
Cedars-Sinai Medical Center,
Los Angeles, California, USA

Dr. Shahは、最初に、私達は最近の数年間に急性冠症候群における動脈硬化性プラークの破裂の病態生理に関して、多くのことを学んだと指摘した。
そして彼は次のように述べた。「安定動脈硬化性プラークから急性冠動脈血栓や冠動脈閉塞を引き起こすようなプラーク破裂へと進展する過程において、炎症が重要な役割を果たしていることが明かになってきた。問題は、どのようにして安定プラークから急性心筋梗塞へと移行するかである。」

Dr. Shahはさらに次のように追加した。「この過程で重要なことは動脈硬化性プラークの線維性被膜の破裂であり、興味深いことに心筋梗塞の大部分は冠動脈造影上、有意な狭窄所見のない部分から発症している。なぜだろうか。動脈硬化の進行した血管は動脈硬化病変により部分的な狭窄はあるものの、代償機序による外膜の拡張によって再構築を受けている。その結果、内腔は長期間にわたり明らかな狭窄は来さない。外膜の再構築に加えて、次の二つのことがプラーク破裂の過程に関係している。一つはプラークのリピッドコア(脂質核)であり、もう一つはリピッドコア上と線維性被膜下に起こる炎症の浸潤である。この炎症の浸潤により、プラークの進行とともに線維性被膜はより薄くなってくる。」

問題は、何が無傷なプラークの線維性被膜を維持していくかである。その答えは、コラーゲンと細胞外マトリックスの構成成分である。被膜の菲薄化とその結果生じるプラークの破裂には、コラーゲンと他のマトリックス構成成分のロス(損失)が関与している。結局、これらの変化はマトリックスの崩壊を来すマトリックスのホメオスタシス(恒常性)の調節異常による。このマトリックスの崩壊は、線維性被膜に存在する活性化された炎症細胞から分泌されるマトリックスメタロプロテイナーゼやセリンプロテアーゼのような酵素によって引き起こされる。これらの酵素は不安定プラークから得られた脂質の中から見いだされた。酸化LDL(low-density lipoprotein)コレステロールは、動脈硬化巣のリピッドコアに存在し、炎症細胞を活性化し、MMP-9のようなメタロプロテイナーゼを産生させる。LDLは、また、メタロプロテイナーゼティシューインヒビターの産生を抑制する。これにより、メタロプロテイナーゼの酵素活性がさらに上昇し、線維性被膜の脆弱化に導く。

Dr Shahは、はっきりと次のように結論づけた。私達は、以上の病態生理的過程について多くのことを学んできた。安定した動脈硬化性病変からプラーク破裂や急性冠動脈血栓への進展において、炎症が重要な役割を果たしていることは非常に興味深い。今後数年間に、私達はさらに多くの知見を得て、この知識を冠動脈疾患の罹患率や死亡率を有効に減少させるために利用する方法を考えなければならない。

レポーター:Andre Weinberger, MD
日本語翻訳・監修:熊本大学医学部循環器内科教授 小川久雄


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