冠動脈疾患患者に対する侵襲的な血行再建術をいつ施行すべきか?
When Should a Coronary Artery Disease Patient Be Considered for Invasive Revascularization?
Bertram Pitt
University of Michigan,
Ann Arbor, Michigan, USA
Pitt博士は、まずはじめに、安定型狭心症の54歳男性患者の例を提示し、今後の治療について彼の主張を展開した。この男性は空港で飛行機に乗るために荷物を持って走った時に胸痛を認め、タリウムを用いた核医学検査によってはっきりとした再分布の欠損像が認められ、心臓カテーテル検査と血行再建術を受けることを勧められた。しかしこれを勧める前に、「もし、カテーテルを受けなければどんな危険性があるのか?」を説明することが必要である。
多くの循環器専門医はこの提言に驚くかもしれないが、この患者における死亡と心筋梗塞の発症の危険性はそれぞれ年1%である。「それゆえ、診断と治療のためのカテーテル手技自体による危険性と比較して、この非常に低い1%の危険性について検討する必要がある。」循環器専門医は、このような場合に心血管事故が発生する危険性は年20%もしくはそれ以上であるから、カテーテル検査が必要であると説明しているが、これは適切ではない。
MASS trialを含むいくつかの大規模試験(左前下行枝を含む一枝もしくは二枝病変の患者を無作為に血行再建療法もしくは薬物療法に分けた試験)において血行再建術と薬物療法を比較した結果、どんな場合でも、血行再建術が成功して運動負荷に伴う症状の改善があっても、長期的には血行再建の結果によって予後は変わらないことが示されている。さらに、「これらの試験は脂質低下療法の無かった時代のものである。」
確かに、ステントが使用されるようになり侵襲的治療も改善されたというものの、アトロバスタチンなどのスタチンを用いた同様の試験では、侵襲的な血行再建を受けた患者よりも薬物療法を受けた患者のほうが生存期間と心血管事故の発生率において良好な結果を呈した。ステントはPTCA(経皮的冠動脈形成術)より良好な結果を呈したが、ステントを用いても薬物療法単独のものに比べると結果は良くなかった。
結論として:「現在PTCAを受ける患者の3分の1以上が安定型狭心症であり、脂質低下療法を含め適切な薬物療法を受けていない。ACE阻害薬(HOPE trial)などの他の薬物療法による予後改善のデータもあらたに得られており、薬物療法を支持するデータが増えている。しかしながら大切な点として、薬物療法による生存率の優位性が現れるまでに1、2年の遅れがあることを忘れてはならない。アムロジピンが早い時期により良い成績を残すというデータもあり、これはおそらく心筋虚血を減らすことによるものである。内科医にとって重要なことはこういった情報を理解することであり、患者にとって重要なことはより良い治療方針を決める上で適切な情報を得ることである。もし、こういったことが実践されれば、実質的な医療費の削減につながるだろう。ただし、最も重要なことは医療費ではなく、虚血のイベントや死亡を減らすことである点に変わりはない。」
レポーター:Andre Weinberger, MD
日本語翻訳・監修:大阪警察病院副院長 児玉和久
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