老年期の視力喪失の最も多い原因となるのは、老年性黄斑変性症(AMD)である。この疾患による視力喪失は家事、料理、旅行などの日常の重要な仕事を不可能にする。
このAMDでは、うつ病の頻度が高い。Rovner博士によれば、発病後の6ヵ月以内にうつ病が出現する頻度は28%である。またうつ病を合併する患者のほうが、視力障害も重篤である。
うつ病はAMDの無能力症と強く結びついている。そこで発表者はこれらの患者においてうつ病という負担を減らす方策を探し、Problem-Solving
Therapy(PST)の有用性についての臨床試験を行うこととした。
対象となったAMD患者は118名である。PSTを受けるもの、あるいは対照として通常の介護のみを受けるものとに分けた。すべての対象は65歳以上であった。両眼に障害があり、少なくとも後で障害が出現した側の眼の障害は最近のものであるとの条件をつけた。看護者が週に1回、6週間にわたって患者宅を訪ね、PSTを教育した。精神科医が試験開始時、2ヵ月後、6ヵ月後にうつ病についての評価を行った。
この研究は現在進行中である。本報告は、2ヵ月後の結果を報告したものである。対照群では、2ヵ月目に14%がうつ病と診断された。一方、PSTを受けている群では、1人も、うつ病は出現しなかった。Geriatric
Depression Scaleで評価してもPSTを受けている群がよい成績を示した。

PSTはまた、AMDの視力も改善した。PSTを受けている群では、視力が低下しているからといって日常活動を諦めてしまうということも少なかった(PST群18%、対照群30%)。さらにPST群では、大きな字で印刷されているもの、聴覚で理解するもの、書字のための補助器具、その他の器具などを利用して活動をする努力をすることも多かった。

この予備的な研究は、PSTがうつ病になるのを防ぎ、日頃の行動においても視力を改善するということを示している。Rovner博士は本発表の結論として、次のように述べた。PSTは、ただ看護者が訪問するだけで、特別に高い費用がかかるわけではない。また、この費用は、患者がまったく無能力状態になったり、心が傷ついたり、老人介護施設に入らないですむことを考えると、十分に割に合うものである。もしこの研究において、最終的によい結果が得られるようであれば、老年精神医学の専門家は、眼科におけるケアのルーチンのものとしてこのPSTを勧めることができるかもしれない。
レポーター: Andrew Bowser |
日本語翻訳監修: |
(財)仁明会精神衛生研究所所長
前京都大学教授
三好功峰 |
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