老年期うつ病における脳構造の性差について
Sex Differences in Brain Structure in Patients with Geriatric Depression
Helen Lavretsky, MD
University of California, Los Angeles
Los Angeles, CA, USA

研究者は老年期うつ病で、脳の変化は血管障害と身体的疾患とに関連があることを示してきた。それに加えて、多くの研究によって、脳の構造の変化は年齢、性別、合併する疾患などに関連があることも明らかにされた。

また、老年期の男性では脳萎縮が起こりやすいことがわかっているが、これが、うつ病の発病のリスクを高めることになる。また、ホルモンの状態が変化することも脳萎縮と関連がある。ある研究では、女性でホルモン補充療法を受けたときに脳の萎縮が起こりやすいことが明らかになっている。

老年期のうつ病における脳の構造と、性差の関係を明らかにする目的で、Lavretsky博士らは大うつ病の患者と年齢をマッチさせた対照群とを比較した。全脳、前頭葉、前頭葉の眼窩脳、それに白質などの体積がMRIを用いて計測された。また、身体疾患や神経精神医学的症状との関連も調べられた。さらに、ホルモン補充療法とMRIにおける脳体積との関連も検討された。

対象となった患者は60歳以上の患者82名である。その中に大うつ病の患者41名(うち32名が女性)が含まれており、対照群は41名(うち20名が女性)であった。平均年齢は大うつ病患者では70.5歳、対照群では72.2歳であった。うつ病の症状とQOLはShort Form-36(SF-36)と呼ばれる健康質問票とHamiltonうつ病尺度で測定した。また、血管性、非血管性といった医学的な状況や、うつ症状としての精神運動性の制止、アパチー(apathy)、認知能力などについては適切な尺度をもって測定した。

うつ病の患者は対照群と比べて、アパチーが高頻度でみられ、Mini Mental State Examination(MMSE)の評点は低く、また、SF-36でQOLが低いことも明らかにされた。彼らはまた、より多くの身体疾患をもっているが、しかし心血管系疾患のリスクファクターが多いというわけではなかった。多変数解析では、男性においては、女性と比べて、よりアパチーがみられ、より多くの身体疾患をもち、より頻繁に精神運動性制止症状がみられることが示された。このことは、うつ病群でも対照群でも同様の傾向があることが明らかにされた。

本研究において、Lavretsky博士は、うつ病男性の脳体積はうつ病の女性と比べて減少しているし、同じように対照群においても男性の脳体積は女性の対照群と比べて加齢に伴って減少していると報告している。

また、男性と女性のうつ病群、男性と女性の対照群において、前頭葉眼窩脳の体積を調べているが、うつ病患者では、その体積は減少している。また、男性は女性と比べうつ病群、対照群を問わず前頭葉眼窩脳の体積はより減少していることも示された。

ホルモン補充療法を受けている女性患者は16名(うつ病群8名、対照群8名)であった。ホルモン補充療法を受けている女性においてアパチーは少なかった。これはApathy Evaluation Scale(AES)の認知検査の関心や動機づけの評価に関する部分で特にその傾向が明らかにされた。しかし、ホルモン補充療法を受けた女性の脳体積は減少していることもまた明らかとなった。

報告者は今後も老年期うつ病における性差の研究を続けるつもりであると言う。特に、このような複雑な関係におけるホルモンの役割について明らかにしていく予定であると述べている。


 


レポーター: Andrew Bowser
日本語翻訳監修: (財)仁明会精神衛生研究所所長
前京都大学教授 
三好功峰