血管性認知障害(Vascular Cognitive Impairment, VCI)は予防することができるか?
Can Vascular Cognitive Impairment Be Prevented?
Philip B. Gorelick, MD, MPH
Rush Medical College
Chicago, IL, USA

Gorelick博士は、健康な老年者となるためには、ある遺伝因子と臨床的特徴が関連しているとしている。長寿に関連のある遺伝子はほぼ100個あり、その中で重要なものの少なくとも1つは第4染色体に存在している。また、臨床的特徴としては、大きなものは4つある。つまり、高血圧、糖尿病、肥満のないこと、喫煙しないこと、がそれである。

見方を変えると、脳循環系疾患の4大危険因子が血管性認知障害や痴呆の危険因子でもあることになる。

これまでの血管性痴呆の研究では、病因や神経画像診断の理解のために、多発梗塞性痴呆、角回や視床など重要な部位における梗塞、広範な皮質下の白質病変といった病理学的モデルが用いられてきた。

今日では、病因と臨床的特徴を組み合わせたモデル、つまり血管性認知障害として理解されるようになりつつある。血管性認知障害は、いくつかのカテゴリーの認知能力低下による症状の組み合わせであり、障害は軽度から重度にまで及び、症状の経過も急激なものから緩徐なものまで含まれている。

原因も様々であり、はっきりとした卒中もあれば、無症状性梗塞もある。病理変化も小血管病、大血管障害、血管壁へのアミロイド蓄積、脳出血など多様である。血管性認知障害はまた多様な症候を含む概念であるが、アルツハイマー病や、卒中の直接の影響は区別される必要がある。

Gorelick博士は、血管性認知障害は初期段階で診断でき、痴呆となることは予防できる、と考えている。痴呆ではないが認知障害がある老年者の約半数は5年後には痴呆に発展するが、この間に予防的対応が可能であるかもしれない。ある双生児研究では壮年期に高血圧のあったもの、血糖値の高かったものは後に痴呆となる危険性が大きいことを示している。


Population Attributable Risk (PAR)
of Select Modifiable Stroke Risk Factors
for Vascular Cognitive Impairment



Factor
Relative Risk
Prevalence
PAR
Hypertension
8.7
25%
66%
Diabetes mellitus
1.8
10%
8%
LDL-cholesterol
2.6
36%
37%
Atrial fibrillation
1.5
4%
2%
Current cigarette smoker
1.8
25%
17%
Alcohol:
2-5 drinks/day
1.8
7%
5%

     Source: Gorelick P, 2003


Gorelick博士は、さらにこれらの危険因子がどのような形で、認知障害を来すことに結びつくのかについて論じている。

2003年に発表されたアルツハイマー病と小血管障害についてのデータから、血管内皮細胞の障害と血液脳関門障害によって有害物質が放出され、これが神経組織に損傷を与えると結論付けている。

このような形で神経組織に損傷を与えるという要因はアルツハイマー病でも、血管性認知障害でも、非アルツハイマー型痴呆でも共通してみられるものである。

博士は、高血圧のような危険因子が直接的に認知障害を悪化させるといった関連を証明することはできなかったが、これは研究の対象となったのがすでに進行した時期であって、発病の時期ではないためであるとしている。

発表者の結論は、壮年期において血管性障害の危険因子をコントロールすることが後に血管性認知障害や痴呆へ進行する危険を減らすことにつながる、高血圧はそのうちでも治療を行うべき対象として最も重要なものである、ということである。

 


レポーター: Andrew Bowser
日本語翻訳監修: (財)仁明会精神衛生研究所所長
前京都大学教授 
三好功峰