認知機能におけるニコチン受容体の重要性
The Critical Importance of Nicotinic Receptors in Cognition

Alfred Maelicke, MD
Institute of Physiological Chemistry and Pathobio-
chemistry, Gutenberg University Medical School
Mainz, Germany


アルツハイマー病(AD)は、構造面においてアミロイド化合物、神経原線維を特徴とする神経変性疾患である。また他の病理的変化としては、アセチルコリン(Ach)ニコチン受容体(nAChRs)の欠損が特徴である。nAChRsの欠損レベルは本疾患の重症度と関連性がある。

この20年間に、FDA(米国食品医薬品局)がAD治療のために正式に認可したのは、3剤だけである。承認されているAD治療薬の開発は、Ach仮説に基づいている。このことは、シナプス間隙におけるアセチルコリンの有効性を高めるコリンエステラーゼ阻害薬の開発に向けられた。承認された3剤(ドネペジル、rivastigmine、galantamine)は、この阻害作用を持つ。加えて、rivastigmineはブチリルコリンエステラーゼをも阻害する。Galantamineは、ニコチンアロスティック活性リガンド(APL)(Achにおけるニコチン神経伝達を活性する)のプロトタイプでもある。

これまで、ADは認知機能障害のみではなく、行動障害との関連も指摘されてきた。このことは、ニコチン受容体が、グルタミン活性およびGABA活性神経における前シナプスに多く存在し、この神経伝達物質の放出を調節する作用があることに関連して興味深い。最近、ラットの海馬、人の皮質スライスを用いたパッチクランプ研究において、APL、グルタミンが、グルタミン活性およびGABA活性神経伝達物質の両方に作用することが示された。この効果は、Achの阻害作用との関連性がなく、ニコチンAPLとして作用しないrivastigmineやドネペジルにない作用である。ニコチンは注意や覚醒に対して効果がある。ニコチン受容体活性はAD患者ではよく認められる症状である選択反応時間、無感情を改善させる。前シナプスニコチン受容体活性により活性されたドーパミンの放出により、これらの効果があるとの報告がある。さらに、スペインおよびイタリアの研究グループからの報告によると、ニコチン受容体の活性は神経防御作用をも有しているとのことである。

 


レポーター: 東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科 橋爪敏彦