国際老年精神医学会(The Congress of International Psychogeriatric Association)は、1982年以来、総会(Congress)が2年に一度、地域会議(Regional Symposium)が年に2回のペースで開催されてきた。これまで総会が開催されたのは、Cairo、Umea、Chicago、東京、Rome、Berlin、Sydney、Jerusalem、 Vancouver、Niceの各都市である。学会としての基盤ができあがったと高い評価を受けた第4回の東京学会(長谷川和夫会長)からすでに14年が経過した。また、第10回のNice学会中に、米国同時テロがあったため、多くの出席者、ことに米国からの学者が帰国もままならない状態となったことは記憶に新しい。

現在、国際学会の会員は88ヵ国にわたっており、約1,177名(2003年3月現在)であるが、参加者は学会ごとに増加しており、最近では、2,000名前後の出席者がある。この学会は、特に老年期精神障害の臨床的な研究や治療に関する報告が集中的に報告される国際学会として注目を集めてきた。

第11回学会は、この8月17日より22日までの期間、ChicagoのSheraton Hotel & Towersで開催された。出席者は事前登録者約1,500名、当日参加者を加えると2,000名を超え、発表された演題は約700題であった。主催者の企画に基づいてシンポジウムの演題が集められ、そのテーマは108を数えた。そのほか4日にわたるポスターセッションと、13題のサテライトシンポジウムが行われた。

近年、先進国を中心とした人口の高齢化のため、老年精神医学に対しての期待と関心は世界的規模で広がっている。本学会はこの流れに対応するものであり、今回も老年期のうつ病(late-life depression)や、幻覚・妄想、せん妄、痴呆などの精神障害に関する研究の成果や、アルツハイマー病、前頭側頭型痴呆、レビー小体病、血管性認知障害(vascular cognitive impairment, VCI)、および、その他の痴呆性疾患の疫学、病態、初期診断、治療などに関する最新の知見について報告が多数行われた。また、痴呆の初期段階として、近年注目されている軽度認知障害(mild cognitive impairment, MCI)に関する研究には、特に多くの関心が集まった。

また、本学会において提唱され、概念の確立が行われてきた「痴呆の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms in dementia, BPSD)」について、今回も、BPSDの症状の特徴、早期発見、治療のあり方などがシンポジウムとして取り上げられた。このBPSDに対する薬物療法や治療に関連する生物学的な基盤についての報告がなされたのは注目された。ただ、このBPSDの概念は、主として米国精神医学会において用いられている「焦燥(agitation)」のそれと同一といってよいほど共通点の多いものであり、今後、用語と概念の統一あるいは調整が必要になることが予測された。

また、本学会では、世界における異なった文化圏における精神障害の現況、それに対する取り組みについての報告が各国からなされ、活発な意見の交換が行われたが、このようなことが可能であることだけでもこの国際学会が開催される意味は十分にあると思われた。

次回の本学会は2年後にStockholmで、さらに2年後の第13回学会は大阪で開催されることが決まっている。