肺癌治療への新しい分子標的の薬剤
Novel Targeted Agents for the Treatment of Lung Cancer

Paul A. Bunn, Jr, MD
University of Colorado Cancer Center
Denver, CO, USA


ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)

ファルネシルトランスフェラーゼを阻害する新規薬剤(FTI)は、NSCLCへの治療薬としての可能性を有している。FTIは単剤または化学療法との併用での研究が進行している。

そのような薬剤の1つがRI15777である。第I相試験において、RI15777は単剤で、乳癌、肺癌に奏効例が認められた。投与量規制毒性は骨髄抑制であり、他の用量依存性の毒性は下痢、末梢神経障害と肝機能テストの上昇であった。

他のFTIであるlonafarnib(SCH66336)は7例の進行NSCLCの症例で第I相試験が行われた。研究者らは1例のpartial response(PR)と4例の最長63週持続するstable disease(SD)を認めた。投与量規制毒性は骨髄抑制、末梢神経障害、倦怠と下痢であった。

M.D.アンダーソン癌センターで進行中の第I/II相試験では、lonafarnibとパクリタキセルの併用を22例の進行NSCLC症例で研究している。第I相試験では、8例のPRが認められ、うち5例は前治療耐性化例であった。第II相試験ではlonafarnibとパクリタキセルの併用療法を検討した。研究者らはtaxaneを含むレジメンに無効であったNSCLC症例を登録した。最初の21例の評価可能症例中PR1例とSD11例であった。


Lonafarnib+パクリタキセル:第I/II相試験での毒性と有効性

  毒性
投与量の段階
評価可能例(n=25)
Grade3-4毒性の
発現例
Lonafarnib 100mg/BID;
パクリタキセル 135mg/m2
3
0
Lonafarnib 100mg/BID;
パクリタキセル 175mg/m2*
8
2
Lonafarnib 150mg/BID;
パクリタキセル 175mg/m2
8
2
Lonafarnib 125mg/BID;
パクリタキセル 175mg/m2
7
2
  *最大耐量と決定

  有効性と憎悪
-
評価可能例(n=21)
Partial responders
前治療なし
6
3
前治療あり
15
5
  21例中、6サイクル後に15例はSDまたはPR(12例のNSCLC中の8例を含む)

文献:Kim ES他.ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)SCH66336とパクリタキセル併用による固型癌症例での第I/II相試験.Proc AM Assoc Cancer Res 42; 488: 2001(abstract #2629).

プロテインキナーゼCアルファ(PKCα)

多くの癌は、いくつかの増殖因子のカスケードの中枢にある酵素のPKCαを過剰発現している。この酵素はそのために新しい治療のアプローチとして魅力的な標的である。PKCα阻害剤であるISIS3521は第I、II相試験において有望な結果を示している。

進行NSCLC症例を対象としての第I/II相試験においてISIS3521はカルボプラチン、パクリタキセルと併用で投与された。48例の評価可能症例中、他覚的奏効率は42%、生存期間(中央値)19ヵ月、1年生存率75%の成績であった。この結果はカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法の成績より優れていた。

このことは研究者たちに、前治療なしの病期IV NSCLCを対象とする進行中の無作為層別化第III相試験を始めさせることとなった。この試験では患者はカルボプラチン/パクリタキセルかカルボプラチン/パクリタキセルにISIS3521を併用するいずれかの治療を受けている。

合成レチノイド

In vitroの研究で、bexarotene(Targretin)は扁平上皮癌を含む種々の癌の発育を阻害した。第I相試験での投与量規制毒性は落屑、白血球減少、肝トランスアミナーゼの上昇、高ビリルビン血症と下痢が含まれていた。

シスプラチン/ビノレルビン+bexaroteneの第I/II相試験が前治療なしのNSCLCで行われた。

第II相試験では、研究者らは25%の他覚的奏効率と生存期間(中央値)14ヵ月と28%の2年生存率を報告した。この結果は他の研究者らがシスプラチン/ビノレルビンの併用療法で文献的に報告している成績を凌駕している。

Bexaroteneは進行NSCLCの維持療法として有用かもしれない。この仮説を立証するための無作為層別化比較試験は、症例の集積が進まないため中止された。しかし、56例の無増悪期間(中央値)は、高用量のbexarotene投与群で128日、低用量では82日、そしてプラセボでは56日であった。よって、導入療法が奏効した症例では、有効性をより強固にするように思われる。



レポーター: Andrew Bowser
日本語翻訳・監修:愛知県健康づくり振興事業団副理事長
愛知県がんセンター名誉総長
小川一誠