Oxaliplatinのレジメン:新しい選択肢
大腸癌は、米国において癌死亡率第2位にある。ひとたび遠隔臓器に転移を来せば、化学療法を施行しない場合の平均生存期間はおよそ6ヵ月である。現在のところベストレジメンは、イリノテカン、5-フルオロウラシル、ロイコボリンの3剤併用療法(CPT+5-FU/LV療法)である。この併用療法により、生存期間中央値は14ヵ月以上に改善されている。
今年のASCOでは、現在のところ標準治療といわれているこの3剤併用療法と新しいレジメンであるoxaliplatin、5-フルオロウラシル、ロイコボリンの3剤併用療法(Oxa+5-FU/LV療法)の比較研究(プロトコールN9741)の成績が報告された。北米の150以上の医療機関で、およそ800例の進行大腸癌症例がリクルートされ、この2つの併用療法に無作為化割り付けされた。
その結果、Oxa+5-FU/LV療法により有意の生存期間の延長が得られた。Oxa+5-FU/LV療法による生存期間の中央値は18.6ヵ月であり、標準治療といわれたCPT+5-FU/LV療法の14.1ヵ月よりも有意に生存期間が延長したのである。そして無進行期間(tome
to progression:TTP)もOxa+5-FU/LV療法が、CPT+5-FU/LV療法よりも1.9ヵ月良好であった。
FOLFOX:効果と副作用
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IFL療法 |
FOLFOX療法 | 生存期間中央値
| 14.1ヵ月 | 18.6ヵ月 | 非進行期間(TTP)
| 6.9ヵ月 | 8.8ヵ月 | 奏効率
| 29%
| 38% |
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Goldberg博士によれば、この18.6ヵ月という値は今まで米国で行われた進行大腸癌の大規模臨床研究のなかでも最長のものである。
副作用の面でも、Oxa+5-FU/LV療法での下痢、嘔気、嘔吐、重症感染症、脱毛はCPT+5-FU/LV療法よりも軽度であった。Oxaliplatinの副作用として、かじかんだ、ジンジンした異常感覚として認識される神経障害がよくみられるが、この副作用は寒気の曝露で増悪する。この副作用はoxaliplatinの治療を受ける多くの患者にみられるが、一般には奏効例にのみ特に認められる。なぜなら、この副作用は、典型的にはoxaliplatinの累積的な副作用として発症するからである。
以上の成績より、oxaliplatinは有用であり、大腸癌の治療薬として期待しうるとGoldberg博士は話している。
著名な大腸癌研究者であるLeonard Saltz博士は、この件に関して以下のように述べている。Oxa+5-FU/LV療法は今や進行大腸癌の治療の選択肢のひとつであり、明らかに従来とは違った副作用のパターンを有している。このことは、ある患者にとっては化学療法をより受け入れ易くするかもしれない。しかし、この新しい治療法を過大評価しないようまだ注意が必要である。大腸癌は癌関連死亡原因の重要なもののひとつである。
イリノテカン併用レジメンの致命率は決して高くはない
イリノテカン、5-フルオロウラシル、ロイコボリンの3剤併用療法(CPT+5-FU/LV療法)は、ボーラスまたは持続点滴静注で投与される。そして5-フルオロウラシル、ロイコボリンの2剤併用療法(5-FU/LV療法)よりも生存期間を改善する。しかしN9741研究では、CPT+5-FU/LV療法での治療開始60日以内でのすべての原因による死亡率は4.5%であった。以前にCPT+5-FU/LVと5-FU/LVによる死亡率はそれぞれ1%と報告されてきたが、その死亡率1%と今回の4.5%という値は実に対照的である。
先の報告では、死亡率の評価方法が異なっていた。先の報告では、治療終了30日以内に特に治療関連死を多く認めた。
CPT+5-FU/LV療法での治療開始60日以内でのすべての原因による死亡率4.5%という数値を適正に評価するために、米国、欧州で行われたCPT+5-FU/LV療法と5-FU/LV療法の無作為化試験参加症例における治療開始60日以内でのすべての原因による死亡率を検討した。この結果、この両方の無作為化試験におけるCPT+5-FU/LV療法登録症例およびCPT+5-FU/LV療法が認可された後の症例における治療開始60日以内でのすべての原因による死亡率は、5-FU/LV療法のそれと比べて同等あるいはより低率であった。
5-FUのボーラス投与法を採用しているMayo Clinic法の5-FU/LV療法とRoswell Park法の5-FU/LV療法における治療開始60日以内でのすべての原因による死亡率は、それぞれ6.7%、7.6%であった。しかしCPT+5-FU/LV療法のそれは幾分低く4.4%であり、Oxa+5-FU/LV療法のそれはさらに低く1.9%であった。

以上の分析結果より、CPT併用療法は決して過度の致死リスクを有するものではなく、治療法の選択においては、60日以内でのすべての原因による死亡率ではなく、その治療法の有効性と急性及び慢性の副作用プロファイルに基づいてなされるべきであるとされた。
イリノテカン第2次治療、2つの投与スケジュール:安全性の差異
5-FUによる1st line治療の後は、米国における進行大腸癌に対する2nd line治療として承認されている治療法は、イリノテカンによる治療であり、それには2つの投与方法がある。しかし、これらの承認されている2つのレジメンは、その有効性と安全性の面について未だ直接比較検討されたことがない。
Fuchs博士らは、5-FUによる1st line治療で進行(PD)した進行大腸癌291例をイリノテカンで治療した。291例はイリノテカン毎週法(125mg/m2を毎週投与4回、その後2週間休薬)あるいはイリノテカン3週法(350mg/m2を3週毎投与)のいずれかに無作為化割り付けされた。
毎週法での1年生存率は46%であり、3週法とは有意差は認められなかった(41%)。生存期間の中央値は、両群ともに9.9ヵ月だった。無進行期間にも有意差は認められなかった(4ヵ月対3ヵ月)。
しかし副作用では有意差が認められた。Grade 3-4の下痢は毎週法で36%であったが、3週法では19%であった(p=0.002)。治療開始4週目の時点では、3週法でより多くの症例でfull
doseの投与が可能であった。しかし3週法では、最初のイリノテカン投与時にコリン作動性症状の発現が有意に高率であった(61%対31%、p<0.0001)。
レポーター:
Andrew Bowser
| 日本語翻訳・監修: 東京慈恵会医科大学内科学講座・附属病院臨床腫瘍部講師 相羽恵介 |
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