精神疾患でも身体疾患でも慢性疾患では服薬が完全には遵守されていない割合は30%にものぼる。精神分裂病では経口投与の場合40%、デポ剤の場合25%にのぼる。また1年後より2年後のほうが服薬不遵守の割合は高くなる。新規抗精神病薬は従来の抗精神病薬より遵守される割合が高いが完全ではない。このアドヒアランスが不十分であることは、精神分裂病ではとりわけ重大な問題である。というのは再入院による年間コストの40%がこのために費やされ、また再発の一番の原因となるからである。
Marder博士は、服薬不遵守をもたらす因子として、医師患者関係(病気が重いこと、誇大的であること、病識欠如、物質依存が併存)、投薬関係(不快な副作用、少量または過量投与)、環境因子(不適切な支持ないし指導、現実的障害、例えば金や交通手段がないこと)、医師の問題、例えば治療契約が乏しいこと、などを挙げた。
この服薬不遵守をもたらす因子のうち一番重要なのは薬剤の副作用である。アキネジアや体重増加、抗コリン作用のようなかなりつらいものから、客観的にはたいしたことはなくても本人が苦痛を感じるもの、例えばアカシジアなどがある。こういった主観的な症状は自分から訴えることは少ないが、治療者の側からたずねる必要がある。もしたずねなければ患者は黙って苦しみ、結局減薬や退薬に至るからである。
またPACT(包括的な地域に根ざしたサービスモデル)が在院日数を減らし、費用対効果が良く、患者が独立に生活を営みやすくし、症状を抑える効果があることから、心理社会的アプローチとして、ケースマネージメント、心理教育、行動技能訓練が治療アドヒアランスを改善することを示した。
これらのことからMarder博士は結論として、薬理学的介入と心理社会的介入によって治療アドヒアランスが改善する、とした。
*レポーター注:Adherenceは通常「治療継続性」ないし「指示遵守度」と訳されますが、意味する内容は患者がいったん了承した治療内容を主体的に継続する、ということで医療者側の指示による従来の服薬遵守complianceに代わって用いられるようになってきています。
レポーター: 帝京大学医学部精神科教授 南光進一郎
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