抗精神病薬によって誘発される糖代謝不全とインスリン抵抗性の機序
Mechanisms of Antipsychotic-Induced Glucose Dysregulation and Insulin Resistance

John W. Newcomer, MD
Washington University
Seattle, WA, USA


肥満は様々な疾患の予後と関係している。Body Mass Index(BMI)が30を超えると心血管障害や糖尿病による死亡率が上昇する。糖尿病はインスリンの分泌、活性またはその両方の障害によって起きる高血糖を特徴とした疾患である。インスリン分泌障害に基づくtype1糖尿病は全体の5%程度で、多くはインスリン活性の障害によるtype2糖尿病である。

インスリンは通常、筋肉、肝臓、脂肪組織に作用し、血糖値を下げる。BMIの増加に伴って糖尿病が増えるが、これは脂肪組織の増加がインスリン活性の低下と相関することに関係するといわれている。高血糖は短期的にはケトアシドーシスを誘発する危険があり、長期的には小血管、および大血管の障害によって様々な合併症の誘因となる。小血管障害は血糖値の閾値が指摘されているが、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる大血管障害に関しては空腹時血糖との明らかな閾値が証明されていない。心筋梗塞のリスクは、血糖値がたとえ正常範囲にあっても、血糖値が高くなると上昇するといわれている。

Newcomer博士らは、空腹時血糖が正常な精神分裂病48人と健常者31人に糖負荷試験を行い、経過を追って血糖値とインスリン値を測定した。その結果、オランザピンとclozapineを服用している患者においては、糖負荷75分後に血糖値およびインスリン値の上昇がみられたが、リスペリドン服用者は健常者との差がなかった。さらに、clozapineとオランザピン服用者では、健常者や定型薬およびリスペリドン服用者に比べて有意にインスリン抵抗性が高いことがわかった。また、ziprasidoneとオランザピンの二重盲検試験の結果によると、オランザピンは治療前と比較して治療後にインスリン抵抗性の有意な増加を認めた。インスリン感受性の比較においては、clozapineおよびオランザピン服用者は、リスペリドン服用者よりもインスリン感受性が約3分の1に低下している。

精神分裂病において心血管障害による死亡率が高いことはよく知られている。同様にすべての精神疾患は糖尿病の危険因子になっている。さらに、抗精神病薬の投与はそのリスクをさらに増加させる。また、耐糖能には人種差がありアジア系人種は糖尿病のリスクが高くなる。抗精神病薬治療中は体重、血糖値、脂質値を定期的に測定するだけでなく、治療前に体重、血糖値、脂質の値を測定することが強く推奨される。


レポーター: 杏林大学医学部精神神経科助教授 平安良雄