糖尿病と精神分裂病の関係は抗精神病薬が登場する以前から注目されていたが、当時は疫学的手法が確立していなかったため、現在と比較するのは困難である。定型抗精神病薬においても、特にクロルプロマジンと糖尿病の関係が示唆されていた。近年、非定型抗精神病薬と糖尿病や糖尿病性ケトアシドーシスとの関係が注目されている。
Sernyak博士らは米国の全退役軍人病院に対して、非定型抗精神病薬で治療を受けた精神分裂病患者(22,648人)と定型抗精神病薬による治療を受けた症例(15,984人)を対象に、糖尿病との関係を調査した。その結果、60歳以上では非定型抗精神病薬と定型抗精神病薬の間で糖尿病の合併率に差は認めなかったが、60歳未満の精神分裂病患者では非定型抗精神病薬群の糖尿病発症率が定型群よりも有意に高かった。
精神分裂病患者における定型および非定型抗精神病薬処方と
糖尿病を合併する確立との関係(全年齢対象)
処方薬 | 確率の比(Odds
Ratio)* | 95%信頼区間 | P値 |
| - | - | - |
| 1.09 | 1.03
〜 1.15 | 0.002 |
| 1.25 | 1.07
〜 1.46 | <0.005 |
| 1.11 | 1.04
〜 1.18 | <0.002 |
| 1.31 | 1.11
〜 1.55 | <0.002 |
| 1.05 | 0.98
〜 1.12 | 0.15 |
Sernyak MJ et
al. Am J Psychiatry. 2002;159:561-566.
*Odds Ratio:定型抗精神病薬処方患者が糖尿病を合併する確率を1としたとき、
外の条件での確率を計算した値
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また、40歳未満の精神分裂病患者においては非定型抗精神病薬群の9%、定型群の6%に糖尿病を認めた。定型群の糖尿病発症率を1とした場合、clozapineは1.25、オランザピンは1.11、クエチアピンは1.31と有意に確率が上がったが、リスペリドンは1.05で定型薬と差がなかった。
また、この糖尿病の確率は40歳以下の精神分裂病患者ではさらに上昇し、すべての非定型抗精神病薬で定型薬よりも有意に確率が上昇し、clozapineは2.13、オランザピンは1.64、クエチアピンは1.82、リスペリドンは1.51となる。
精神分裂病患者の糖尿病発病率は健常成人の約2倍といわれているが、精神分裂病患者は適切な医療を受けていないことも多く、見落としも多いと考えられる。血糖値が確認された糖尿病の既往のない、clozapineを服用している精神分裂病患者121人を対象に治療後に空腹時血糖値を調べたところ、6%は糖尿病と診断され、17%に血糖値の上昇が認められた。
糖尿病を合併した精神分裂病患者の治療においては、現在報告されている情報に基づき、個々のリスク・ベネフィットを検討して抗精神病薬の選択を行う必要がある。2つの慢性疾患を管理することは容易ではないが、糖尿病の危険因子を下げるには、体重またはBody
Mass Index(BMI)の確認、食事、禁煙、運動に対する管理などが大切である。
レポーター: 杏林大学医学部精神神経科助教授 平安良雄
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