非定型抗精神病薬は従来型と比較して錐体外路症状が少ないことから、精神分裂病の治療薬として定着しているが、そのほかの副作用をもつことが注目されている。米国では人口の50%が肥満傾向にあるといわれており、肥満に関連した疾患による医療費は現在では約20兆円といわれている。肥満と体重増加は一般的にも大きな問題であるが、精神分裂病患者に肥満が多いことは非定型抗精神病薬以前から問題視されていた。
Wirshing博士は非定型抗精神病薬を用いた8つの臨床試験の結果から92人の男性精神分裂病患者を対象に体重変化を調べた。その結果、体重増加はclozapineで最も大きかった。10%以下の軽度の体重増加を認めた患者数はハロペリドールと種々の非定型抗精神病薬で差がなかったが、10%以上の体重増加はクロザピンおよびオランザピン服用者に多かった。非定型抗精神病薬によって起こる体重増加のパターンは薬によって異なる。リスペリドンの体重増加は軽度で約20週後に増加が止まるのに対し、オランザピンの体重増加は40週以上も続く。また、ziprasidoneでは体重の変化はみられないといわれている。

抗精神病薬による体重増加の原因は、まず過鎮静による基礎代謝の低下がある。これはH1受容体の関与が示唆されオランザピンとclozapineに強い。さらに5HT2C親和性の関与が考えられている。
Clozapine使用中の糖尿病発症についての23報告をまとめた結果、投与量に依存せず、体重増加は必ずしも認めていない。また、clozapineによる糖尿病384例で25%が1ヵ月以内に発症したという報告もある。メドラインや学会抄録からの検索結果では新しい糖尿病の症例報告論文はclozapineで345編、オランザピンで111編であるのに対し、クエチアピンとリスペリドンはともにわずか3編である。また、ケトアシドーシスについてもclozapine80編、オランザピン21編に対し、クエチアピンとリスペリドンはわずかに1編であった。糖尿病を誘発する機序として、5HTが直接膵臓のインスリン分泌に与える影響が示唆されている。590例の調査からオランザピンが血糖値(約20%)および中性脂肪(約30%)を上昇させることがわかった。

体重増加および糖尿病を予防するには、1〜4週の間隔で体重を測定する。さらに、患者の生活習慣を把握し、5kg以上の体重増加を認めたら、食事内容を記録するように指導する。さらに、栄養指導、運動療法を勧める。空腹時血糖、中性脂肪、コレステロールなどは3ヵ月ごとに測定し、その変化に注意する。
レポーター:
杏林大学医学部精神神経科助教授 平安良雄
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