ある種の薬物は臨床上明らかなQT延長を起こすことが知られている。抗精神病薬の中でも、ハロペリドールとチオリダジンが最も多くQT延長を起こすといわれている。いくつかの抗ヒスタミン薬は重篤なQT延長を起こすことによって発売禁止となった。また、向精神薬のsertindoleはこのために認可されなかったし、チオリダジンとziprasidoneは添付文書に警告が示されている。QTは生理学的には心室の脱分極と再分極の総和を反映し、心筋においてはCa2+の流入とK+の流出が起こる。QTの延長は加齢、糖尿病、肥満などによっても助長される。

また、QT延長と関連した遺伝子も発見されている。この遺伝子によってプルキンエ線維の一部に障害が起こり、心室細動の誘因となるといわれている。プルキンエ線維の障害が広範に起こると、いわゆるtorsade
de pointes型の心室細動を引き起こし突然死の原因となる。抗精神病薬によるtorsade de pointesの約20%には遺伝子異常が関係しているといわれている。抗うつ薬によるtorsade
de pointesも多く、最も頻度が高いのはアミトリプチリンである。精神科患者495人の調査によると約8%にQT延長を認めた。また、抗精神病薬と三環系抗うつ薬を併用した患者の15%にQT延長を認め、両薬物の併用には厳重な注意が必要であるといえる。向精神薬によるQT延長は用量依存性があるといわれている。
突然死に関しては、フェノチアジン系抗精神病薬、特にチオリダジンの報告が多い。また、フェノチアジン系と三環系抗うつ薬の併用は突然死の確率が上がる。大量療法、QTが500msec以上、多剤併用の場合はtorsade
de pointes型心室細動と突然死のリスクが上がることを考慮する必要がある。ZiprasidoneはQT延長を起こすが突然死の報告はない。また、その他の非定型抗精神病薬もtorsade
de pointesおよび突然死との関連の報告はない。別の抗精神病薬と突然死の関係を調べた研究において、ハロペリドールの使用が20%、チオリダジンが20%と最も多かった。正常QTの精神分裂病183人で抗精神病薬服用後のQTを調べたところ、チオリダジンではQTが平均36msec延長し、次いでziprasidoneであった。他の非定型抗精神病薬のQT延長はわずかであった。
QT延長とtorsade de pointesの原因は多様であるが、QT延長を誘発する抗精神病薬の使用に関しては十分な注意が必要である。
レポーター: 杏林大学医学部精神神経科助教授 平安良雄
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