精神分裂病において糖尿病や心疾患などの予防可能な身体疾患による死亡率は、健常者に比較すると約5倍といわれている。マサチューセッツ州で1989〜1994年に4,327人の精神疾患患者(50%が精神分裂病)を対象とした追跡調査によると、精神疾患をもつ患者の平均余命は健常者と比較して、10年短いことがわかった。精神分裂病患者の死亡率に影響する要因として、遺伝、生活様式、薬物の副作用、不十分な医学管理などが挙げられる。
これまで精神分裂病では癌の罹病率が低いといわれていたが、最近のフィンランドでの疫学調査によると、精神分裂病の癌の発病率は健常者よりも高く、特に肺癌と咽頭癌および乳癌の率が高かった。また、マサチューセッツ州での調査によれば、1999年に死亡した25〜44歳の精神障害者の死亡原因は癌や自殺での死亡率は一般成人と変わらないものの、心疾患と呼吸器疾患の死亡率が約7倍であった。精神分裂病の心血管障害の危険因子として、肥満、高血糖、喫煙、高脂血症、高血圧、不整脈などが考えられるが、高血圧を除き抗精神病薬の服薬によってさらにリスクが増加する可能性がある。現在、精神分裂病患者の約70〜80%が喫煙しているといわれているが、喫煙は抗精神病薬の代謝に影響し、通常は血中濃度を減少させる。
抗精神病薬の身体への影響として体重増加、高脂血症、高血糖、不整脈などが考えられる。抗精神病薬投与10週間後の体重増加をみた報告によると、ziprasidoneとハロペリドールで少なく、clozapine、チオリダジン、オランザピンで大きいことがわかった。血糖値に関しては、clozapineの5年間の長期投与試験で、5年後に約80%で空腹時血糖が140mg/dL以上になるという報告がある。定型抗精神病薬服薬の調査ではCPZ換算で100mg/day投与中の場合、突然死の確率は約2.4倍になるといわれている。非定型抗精神病薬の場合はclozapineの突然死の報告が突出して多いが、他の非定型薬剤での報告は少ない。
精神分裂病患者の医療の妨げとなるものとして、診断の見逃し、コンプライアンスの低下、治療拒否、社会的偏見などが挙げられる。心筋梗塞後の生存率をみても精神分裂病の合併は死亡率を約34%増加させる。このことからも精神分裂病に対する医療の質をいかに維持するかが大切であることが理解できる。自殺、喫煙、肥満および十分な医療を行うことに注目し、定期的な身体的検査を行うことが基本的な予防策である。
レポーター:
杏林大学医学部精神神経科助教授 平安良雄
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