β遮断薬は心不全患者の予後を明らかに改善することが知られている。しかしながら、最近の研究では全てのβ遮断薬がこれらの患者に対して同じ効果をもつわけではないということが示されている。
最近、β1選択的な遮断薬であるメトプロロールと、いくつかの交感神経系の遮断作用を併せもつカルベジロールとを比較したCOMET試験が行われた。カルベジロールはβ1遮断作用だけでなくβ2遮断作用とα1遮断作用ももった薬物である。このCOMET試験の結果は、カルベジロールは死亡率を改善するという点においてメトプロロールよりも優れているというものであった。
Shannon博士らは、心不全患者におけるこれら2つの薬物の異なった効果がなぜ起こるのかということを解明したいと考えた。そこで彼らは心不全の時に起こる代謝異常に注目した。特に彼らが注目したのは、不全心においてはその心筋代謝の基質としてグルコースが優先的に使われるという点であった。故に、彼らは異なるβ遮断薬は心筋のグルコース取り込みに対して異なる作用をもつのではないかと考えた。
これら2つのβ遮断薬の効果を比べるために、重症の拡張型心筋症を引き起こすために29日間にわたり頻拍ペーシングが行われた13匹の成犬を用いた。

これらの犬は、カルベジロール25mg(分2)投与する群と、メトプロロール100mg(分4)投与する群とに無作為に分けられ、それぞれ3日間投与された。これらの薬物の用量は2群の犬の間で心拍数に差が出ないように決められた。
治療前と治療の最終日に血行動態および代謝に関する測定が行われた。心筋のグルコース取り込みは、冠動脈の血流および経心筋的な基質のバランスとして測定された。
血行動態に対する効果
カルベジロールによる交感神経系遮断作用の方が血行動態に与える影響は明らかに大きかった。カルベジロールはメトプロロールと比べ、より大きく左室拡張末期圧を低下させ、心拍出量を増加させた。これらの作用はカルベジロールとメトプロロールで心拍数を低下させる作用は同等であったにもかかわらずみられた。

代謝に及ぼす効果
カルベジロールによる治療後では、血中のインスリンレベルはほぼ3倍にまで上昇していた。その結果、心筋のグルコース取り込みは著しく上昇した。それに比べ、メトプロロールは基本のインスリンレベルに影響は与えず、故にグルコース取り込みにも影響は与えなかった。

糖調節ホルモンに及ぼす効果
心筋のグルコース取り込みが改善するメカニズムを理解するために、血糖調節に関してインスリンと逆の作用をもつ調節ホルモンであるノルエピネフリンの血中レベルに及ぼすこれら2つのβ遮断薬の効果が調べられた。カルベジロールはメトプロロールに比べ、より大きく血中のノルエピネフリンレベルを抑制した。
また、インスリンの作用に特異的に拮抗するホルモンであるグルカゴンに対する効果も調べられた。カルベジロールは血中のグルカゴンレベルを抑制したがメトプロロールは抑制しなかった。

以上より、カルベジロールのもつ複数の交感神経系遮断作用の利点というのは一つには不全心におけるグルコースの代謝的利用の改善にあると考えられる。そしてそのメカニズムにはインスリンと逆の作用をもった重要な調節ホルモンであるノルエピネフリンやグルカゴンの抑制ということが関与していると考えられる。これらのデータは、COMET試験においてなぜカルベジロールの方がメトプロロールよりも優れているという結果が得られたかを解明する一端となるかもしれない。
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