AHA2003 Conference News

心不全の代償破綻のために入院し、病状が安定した患者に対し、入院中にカルベジロールを開始することは、β遮断薬療法の効果を改善する有効な方法である:IMPACT-HF試験の結果
Pre-Discharge Initiation of Carvedilol in Patients Stabilized during an Admission for Decompensated Heart Failure is an Effective Strategy to Improve the Use of Beta-Blocker Therapy: Results of the IMPACT-HF Trial
演者顔写真 Mihai Gheorghiade, MD
Northwestern University, Feinberg School of Medicine
Chicago, IL, USA

大規模な前向きの無作為試験によると、ある種のβ遮断薬は心不全患者における罹患率や死亡率を減少させることが示されている。さらに、発表されているガイドラインによると、このような状況ではβ遮断薬の使用を勧めている。

しかしながら、この命を救う可能性のある治療が施されているのは、該当する心不全患者のおよそ30%から40%の患者にすぎない。問題の一つは"有害な回路"が心不全患者におけるβ遮断薬の使用を制限していることだ、とGheorghiade博士は述べている。ガイドラインはβ遮断薬療法の開始前に、入院後2週間から4週間待機するように勧めている。しかしながら退院後、患者はしばしば処方を受けようとはしない。このことは家庭医が薬を処方することに熱心でないためかもしれない。家庭医によっては、退院時処方に含まれていなければ、処方は必要ないと信じているのかもしれない。

この有害な回路を打破する新しい方法が、心不全患者におけるβ遮断薬使用を広める助けになるかもしれない。一つの可能な方法は、β遮断薬療法を退院前に開始することだ。この方法は退院後までβ遮断薬投与を待機することを勧めている現在のガイドラインを否定することになるかもしれない。その一方で、コペルニクス試験(COPERNICUS)では、カルベジロールが重症心不全患者においても、投与直後から安全で効果的であることを示している。

そこでGheorghiade博士とその同僚たちは、退院前にカルベジロールを開始する安全性の試験を実施した。彼らは前向きで無作為のオープンラベル試験、IMPACT-HF試験(退院前の治療開始:心不全患者に対するカルベジロール療法を評価する)を開始した。

IMPACT-HF試験は多施設の試験で、対象は心不全増悪のため入院となった363人である。全ての患者は左室駆出率が40%以下であった。患者の一部は、退院前のカルベジロール投与に割り付けられ、低用量のカルベジロール(3.125mgを1日2回)を開始した。残りの患者は、退院後に家庭医の判断によりβ遮断薬を開始するという標準的な治療を受けた。一次エンドポイントは60日後にβ遮断薬を投与されている患者の数であった。

ベースラインでの2群間の患者の特徴は、ほぼ同じだった。


Baseline Characteristics


 
Carvedilol
Predischarge
Initiation
N=185
Physician Discretion
Postdischarge
Initiation
N=178
Median Age
68 (55, 77)
66 (52, 76)
Male (%)
52
54
Caucasian (%)
64
65
Ischemic Etiology (%)
44
48
Median LVEF (%)
25 (20, 30)
25 (20, 30)

 (25th, 75th percentiles)

最も多かった合併症は高血圧、糖尿病、高脂血症であった。どちらの患者群もNYHAクラス(ほとんどがIII〜IV)、浮腫、基本的な投薬などの心不全の徴候や症状は、ほぼ同じだった。


Comorbidities


 
Carvedilol
Predischarge
Initiation
N=185
Physician Discretion
Postdischarge
Initiation
N=178
Hypertension (%)
61
66
Diabetes (%)
37
41
Renal
insufficiency (%)
11
11
Pulmonary
disease (%)
15
12
Atrial fibrillation/flutter (%)
20
24
Ventricular
arrhythmia (%)
8
10
Hyperlipidemia (%)
29
30


β遮断薬の開始

β遮断薬を投与された患者数は、退院前にカルベジロールを投与されたグループの方が、退院後に家庭医の判断でβ遮断薬を開始されたグループよりも多かった。Gheorghiade博士によると、退院前にカルベジロールを投与された患者の91%が60日後にもβ遮断薬を投与されていたのに比べ、退院後に投与されたグループでは73%であった(p<0.0001)。退院後にβ遮断薬を開始したグループでの投与までの平均時間は20.3日だった。

β遮断薬の投与量

さらに、退院前にカルベジロールを投与するグループに割り付けられた患者の方が60日後の投与量は多かった。研究者たちは退院前のカルベジロール投与群の36%が平均的な目標量に達していたのに比べ、退院後に開始したグループでは29%しか達していないことを明らかにした(p=0.0183)。

臨床的な結果

退院前にカルベジロールを投与することは、心不全増悪のリスクを増やすこととは関連がなく(9%、退院後投与群は14%)、また他の重篤な合併症とも関連がなかった。実際、退院前のカルベジロール投与群においては、死亡や再入院が減る傾向にあった。

退院前のカルベジロール投与は入院期間を延長するものではない。平均的な入院期間は退院前のカルベジロール投与群が5.9日、退院後のグループが6.6日だった。

これらの結果は、安定化した心不全患者に対して退院前にカルベジロールを投与することは、β遮断薬療法の効果を増加させることを示している。研究者たちは重い副作用や入院期間を延長することなく、この改善を達成した。退院前のカルベジロール投与開始法は、心不全患者において命を救う可能性のある治療法の実用的な方法かもしれない。


Abstract: 3038
レポーター:Andrew Bowser
日本語翻訳・監修:京都大学大学院医学研究科循環病態学 大野聖子

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