β-2アドレナリン受容体は、心拍数や心収縮力を調節する。β-2アドレナリン受容体遺伝子における二つの一般的な多型は、16番目のアミノ酸であるアルギニン(Arg)がグリシン(Gly)に変わる多型と、27番目のアミノ酸のグルタミン(Gln)がグルタミン酸(Glu)に変わる多型である。
27番目のグルタミン酸をホモ接合で持つ患者(Glu27Glu)は、一般的に16番目のアルギニンをホモ接合で持つ。この遺伝子型は、多くの臨床的効果と関係がある。気管支収縮を和らげ、血管拡張作用を増強し、高血圧患者においては収縮期血圧を低下させ、子癇前症のリスクを低下させ、運動耐用能を増加させ、また、高齢者における心血管系イベントのリスクを減少させる。
Metra博士と共同研究者らは、150人の心不全患者において、これら二つの多型がβ遮断薬治療における長期効果に関連があると考えた。150人中、125人はカルベジロール(平均34mg/日)を内服しており、35人はメトプロロール(平均96mg/日)を内服していた。博士らは、β遮断薬治療の前と後(治療開始9〜18ヵ月後)で血行動態の変化と左室機能を比較した。
16番目のアミノ酸多型はβ遮断薬治療に対する反応性と特に相関がなかった。一方、27番目のグルタミン酸(Glu27)をホモ接合で持つ患者は、基質により促進されるβ-2アドレナリン受容体の機能低下が抑制されていた。この患者群ではβ-2アドレナリン受容体機能が亢進し、感度も上昇していた。
博士らは、さらに、27番目のアミノ酸の多型とβ遮断薬治療に対する反応について検討した。患者を27番目のアミノ酸がグルタミンのホモ接合(Gln27)である群(79人)とグルタミンとグルタミン酸のヘテロ接合(Gln27/Glu27)である群(57人)、グルタミン酸のホモ接合(Glu27)である群(24人)の3群に分けた。3群の臨床背景に特に違いはなかった。
Baseline Clinical Characteristics
by Gln27Glu Polymorphism
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Glu27Glu |
Gln27Glu |
Gln27Gln |
Number of patients |
24 |
57 |
79 |
Age, years |
54 |
57 |
57 |
Left ventricular ejection
fraction, % |
21.9 |
21.8 |
21.6 |
Patients on carvedilol (%)
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21 (87.5) |
46 (80.7) |
58 (73.4) |
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この研究の主な目的は、遺伝子多型とβ遮断薬治療(主にカルベジロール)による反応性の関係を調べることである。治療前、左室駆出率は3群間で差はなかった。β遮断薬治療により、3群とも有意に左室駆出率は改善した。しかしながら、左室駆出率の改善は、Glu27ホモ接合の23例の患者群で最も大きかった。左室拡張末期容積も同様に、Glu27ホモ接合の患者群において最も大きく改善した。
Glu27ホモ接合患者群では、他群に比べ、左室駆出率、肺動脈楔入圧、一回駆出係数が大きく変化した。
Change in Clinical Characteristics
After Beta-Blocker Treatment
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Glu27Glu |
Gln27Glu/Gln27Gln |
Change in left ventricular
ejection fraction, % |
+14 |
+8 |
Change in pulmonary wedge
pressure, mm |
-10 |
-6 |
Change in stroke volume index,
mL/bt/m2 |
+14 |
+9 |
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安静時、最大運動時の心拍数は、3群間で同じであった。しかし、末梢血管抵抗はGlu27の多型がホモ接合である患者群において、安静時、最大運動時とも有意に低かった。また、β遮断薬治療前後においてもGlu27ホモ接合患者群において末梢血管抵抗が有意に低かった。
同様に一回駆出係数も、β遮断薬治療前後において、また、β遮断薬治療中の最大運動時においても、Glu27ホモ接合患者群で有意に高かった。
また、Glu27ホモ接合患者群では、肺血管抵抗はβ遮断薬治療前から他群に比べ有意に低く、最大運動時さらに低下する傾向にあった。
血行動態的データにおいては、Glu27ホモ接合患者群で安静時の一回駆出係数がβ遮断薬治療前に比べ最も大きく増加した。また、安静時、最大運動時の肺動脈楔入圧も大きく低下した。
多変量解析を行うと4つの因子がβ遮断薬治療後の左室駆出率の改善に有意に相関していることがわかった。その因子は、非虚血性心筋症、β遮断薬治療前の収縮期血圧が高いこと、β遮断薬の投与量、そしてGlu27ホモ接合の患者であった。
これらの知見から、Glu27の多型においては、β遮断薬治療前においてもカルベジロール長期投与後においても、左室機能は低下しにくいのではないかと考えられた。今後、博士らは、これらの遺伝子多型とカルベジロール治療のみを行った患者群における反応性の関係を検討する予定であるとのことだ。
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