AHA2003 Conference News

急性心筋梗塞におけるバルサルタンの有用性(VALIANT)
Valsartan in Acute Myocardial Infarction Trial (VALIANT)
演者顔写真 Marc A. Pfeffer, MD, PhD
Brigham and Women's Hospital
Boston, MA, USA

急性心筋梗塞後に生存できても、多くの症例で心不全や左室機能障害を生じる。これらの症例では、死亡や非致死性心血管系イベントの発症リスクが高い。今までの臨床試験の成績では、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE)は心血管系イベントの発症リスクを約20%軽減させた。ACE阻害薬にはレニン・アンジオテンシン系の抑制作用がある。

アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)にも同様にレニン・アンジオテンシン系の抑制作用があり、ACE阻害薬に比べ新しい薬物であり、より特異的にアンジオテンシンIIを強く抑制することが知られている。

以上のことから、ARBであるバルサルタンがACE阻害薬カプトプリルと比べ、より優れた効果があるかどうかという点について世界規模の大規模多施設無作為臨床試験が開始された。従来から、心筋梗塞後の死亡や再発のリスクの高い症例にカプトプリル50mg×3回/日投与が有効であることが証明されている。

今回の研究では24ヵ国931施設から14,703例を登録した。全体の99.05%、すなわち14,564症例において研究者により生死の確認がとれている。


Baseline Characteristics


Age
65.0 years
Women
31.5 %
Mean BP
123/72 mm Hg
Killip class
 I
 II
 III
 IV

28.0
48.3
17.3
6.4
Mean LVEF
35.4 %
Creatinine
1.1 mg/dL
98 μmol/L
Time to randomization
4.9 days
Thrombolytic therapy
35.2 %
Primary PCI
14.8 %
Other PCI after MI, prior to randomization
19.8 %
Qualifying MI site
 Anterior
 Inferior

59.4 %
34.4 %
Qualifying MI type
 Q wave
 Non Q wave

66.6
31.9


全ての患者が急性心筋梗塞発症後10日以内に症例登録した。急性心不全、左室機能障害または両方が観察された症例を対象とした。バルサルタン160mg×2回/日、カプトプリル50mg×3回/日、バルサルタン80mg×2回/日かつカプトプリル50mg×3回/日の併用療法のいずれかひとつの治療法が選択された。

一次エンドポイントは総死亡であり、全ての原因による死亡を含めた。二次エンドポイントは心血管系死亡、心筋梗塞、心不全の発症である。また薬物の安全性および忍容性についても観察した。

結果は、有効性がすでに確認されている用量のカプトプリルを投与されている群と同じく、バルサルタン投与群でも死亡リスクを減少させた。観察期間の中央値24.7ヵ月の追跡期間中バルサルタン投与群では死亡が979例で、カプトプリル投与群では958例であった(ハザード比は1;97.5%信頼区間0.90-1.11)。カプトプリルおよびバルサルタン併用投与群では死亡が941例(カプトプリル単独投与群と比較してハザード比は0.98;97.5%信頼区間0.89-1.09)であった。総死亡数に関して3群間で統計学的有意差はなかった。

総死亡に関して非劣性試験(non-inferiority test)を施行した。バルサルタンのカプトプリルに対する非劣性は、片側97.5%信頼区間の上限が非劣性の境界範囲内に入っていた(p=0.004)。同様にバルサルタンは致死性および非致死性心血管系イベントのエンドポイントに関してもカプトプリルに対する非劣性(同等である)範囲に入っていた(p<0.001)。Pfeffer博士によると、バルサルタンはカプトプリルで観察された総死亡に対する予防効果の99.6%の効果を保持していたと述べている。

死亡および疾病の発症予防に関して、バルサルタンはカプトプリルと同等に有効であったとPfeffer博士は語った。すなわち心血管疾患死、心血管疾患死または心筋梗塞、心血管疾患死または心不全、心血管疾患死と心筋梗塞および心不全について、いずれも治療効果の有効性は同等であったと述べた。

バルサルタンとカプトプリルの併用療法について、Pfeffer博士は「死亡率低下に関して上乗せ効果は見出せなかった」と報告した。逆にバルサルタンとカプトプリルの併用は薬の副作用の頻度を増加させている。

以上の結果から、バルサルタンは心筋梗塞後のイベントの抑制や死亡率の低下に有用であり、ACE阻害薬カプトプリルに替わる有効な薬物であることが示唆される。「本臨床試験により心筋梗塞後のハイリスク症例において生存率を向上させ、疾病予防に有効なARBの用量設定を今や臨床医は手に入れたことになる」とPfeffer博士は述べている。

Valiant試験の詳細な結果については New England Journal of Medicine
(November 13, 2003, p. 1893)に掲載されている。


レポーター:Andrew Bowser
日本語翻訳・監修:富山医科薬科大学第二内科 平井忠和

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