心不全患者では、炎症とノルエピネフリンによって、心筋のiNOSの発現を増加する可能性がある。これは心筋の収縮力を低下させる可能性がある。
長期間、β遮断薬であるカルベジロールを投与すると、拡張型心筋症の患者の心筋収縮力が改善する。しかしながら、iNOSの発現に強い影響を与えるカルベジロールのin
vivoでの実験やNO依存性のβアドレナリン作用による心筋収縮力の変化の研究はなかった。
Tang博士らは、心筋のiNOS発現を抑制することにより、長期的なβ遮断薬療法を開始した患者で心筋収縮力が回復すると仮定した。これを評価するために、心筋のiNOS
mRNA遺伝子発現、およびiNOS遮断した状態でドブタミン負荷後の左室収縮力の増大を測定した。
この研究では、EF45%未満およびNYHAII-IIIで状態が安定している心不全患者を含んでいる。カルベジロールを投与された患者は20人であった。この全患者は右心カテーテル中に心筋生検を行った。このうち12人は、さらに収縮力の変化をみるために血行動態も評価した。コントロールには、β遮断薬を投与されていない17の心筋生検標本を含んでいる。さらに5人のβ遮断薬を投与されていない患者は心筋生検および血行動態測定を行っている。
試験前でのNT-proBNPの値は、カルベジロール投与群においてわずかに高かった。カルベジロール投与群では平均のEFが高かった。しかしながら、カルベジロール投与前のEFはコントロール群とほぼ同じであった。
Subject Characteristics
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Carvedilol
(n=20) |
No
Carvedilol
(n=23) |
Mean age (years) |
54 ± 8 |
52 ± 6 |
Gender (% male) |
75% |
74% |
Mean LV ejection fraction |
32 ± 8% * |
24 ± 7% |
Etiology (% ischemic) |
40% |
52% |
Baseline NT-proBNP (pmol/L) |
1078 ± 1205 |
714 ± 736 |
Co-morbidities:
|
Hypertension |
55% |
61% |
Diabetes mellitus |
30% |
35% |
Medications: |
ACE inhibitors/ARBs
|
85% |
87% |
Diuretics |
100% |
100% |
Digoxin |
30% |
39% |
Spironolactone |
15% |
13% |
*
Baseline mean LV ejection fraction prior to carvedilol
= 25 ± 7%
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心筋のIL-6、BNPおよびiNOS mRNA遺伝子発現は、全てカルベジロール投与群で低かった。しかしながら、統計的に有意差があったのはIL-6のみであった。

心筋のiNOSとIL-6 mRNA発現の間に直接的な相関性がある。これは、心不全では心筋のiNOS発現と炎症の間に関連があることを示唆する。

18人の患者は心臓カテーテル検査の6ヵ月後に心エコー検査を行った。これらの患者では、カルベジロール投与開始後、心筋のiNOSがより高値である者は左室の収縮性がより改善したことと関係していた。

コントロール群では40%程度、左室収縮力が増大していた。カルベジロール投与群では平均4%程度にすぎなかった。これはカルベジロールの投与は左室の収縮力を改善することができる機能的なiNOS活性とあまり関係しないことを示唆する。

この研究ではいくつかの重大な限界がある。これはケースコントロールスタディであるため、因果関係が立証できない。サンプル数が少数であるため、有意差を強調できない。最後に、心不全の程度を評価するのは主観的なものである。
しかしながら、これらのデータは、カルベジロールは炎症が媒介するiNOS独立性の心筋収縮力の調節経路に関与している可能性があることをまさに示唆するものである。そうであるならば、カルベジロールはこの経路で特殊なターゲットに作用するかもしれない。また、虚血などで、この経路の上流の過程を調節する可能性もある。
これらのことを確証するには、ニトロチロシンなどのNO独立性の酸化ストレスマーカーを測定しなければならないとTang博士らは述べている。彼らは、β遮断薬投与前後で、大規模集団の患者においてこれらのストレスマーカーを測定するつもりである。
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