左室瘤に対する左室形成術は壁張力を減少させ、左室機能の改善に有用であるが、遠隔期に左室リモデリングのため左室機能が悪化し、それに対してACE阻害薬が術後の左室機能維持に有効であることを報告してきた。
最近の研究にて、ANPは血管拡張作用や利尿作用だけではなくレニン・アンジオテンシン系の抑制作用も有し、心筋梗塞後の左室リモデリング予防に対して有効であるとの報告もある。そこで、恒吉博士らはANPが左室形成術後の左室リモデリング抑制に有用であるかを検討した。
ラットの左前下行枝を結紮し、4週間後の左室瘤を伴った虚血性心筋症ラットを用いて、前壁の左室瘤に対して左室形成術を行った。



左室形成術後、ラットを2群に分け、ANP投与群では小型浸透圧ポンプを皮下に埋め込み頚静脈よりカルペリチド(α-human
ANP)を0.5μg/kg/minで4週間静脈内持続投与した。コントロール群では、同様の手技にて生理食塩水を投与し、検討を行った。

投与後両群間で、血圧、脈拍に有意差はなかった。

左室形成術後、左室の再拡大を両群とも認めたが、ANP投与群では生理食塩水投与群に比べて再拡大の程度が有意に抑制されており、左室形成周囲の壁運動低下領域の進展も有意に抑制した。

4週間後の心臓カテーテル評価では、ANP投与群でLVEDPは低値であり、TauおよびEesは高値であった。

左室形成周囲の心筋線維化は、ANP投与にて抑制されており、左室形成部対側のremote-area内の線維化抑制作用も認めた(コンピュータ解析によるremote-areaのfibrosis割合は、ANP投与群が3.8±1.6%、生理食塩水投与群では7.9±2.8%であった)。Messenger-RNAの発現は、ANP投与群でBNPの発現が抑制されており、心筋線維化を引き起こすTGF-β1の発現も有意に抑制していた。

本研究にて、恒吉博士らは慢性虚血性心筋症ラットでの左室形成術後のANP投与は左室リモデリング、心機能維持、心筋線維化に対して有用であり、臨床においてもANP投与は左室形成術後の新たな治療法として期待できると結論した。
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