心筋微小循環の変化は本態性高血圧の特徴である。高血圧症患者の心筋では灌流予備能は減少し、微小血管の抵抗は増加していることが研究により明らかにされている。これらの異常は抵抗血管の構造の変化(狭小化)と関係があるかもしれない。
これまでの研究で、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬治療により抵抗血管の構造を改善したことが明らかにされていた。対照的に、β遮断薬治療では血圧は同程度低下しても、抵抗血管の構造を改善しなかった。
それらの結果に基づいて、Buus博士および共同研究者は、ACE阻害は心筋の微小血管抵抗を改善しβ遮断は改善しない、と仮説を立てた。これを証明するために、彼らは本態性高血圧の患者において、ACE阻害薬ペリンドプリルあるいはβ遮断薬アテノロールを用いた長期的な治療を比較した。彼らは心筋灌流および血管抵抗に対する治療効果を評価した。
研究者たちは、今まで未治療の本態性高血圧症患者30人(平均年齢50歳)をペリンドプリル群(4〜8mg)あるいはアテノロール群(50〜100mg)に無作為に割り付け、心拡張期血圧が90mmHg未満に達するように投薬を調整した。彼らは、ポジトロン(陽電子)断層撮影法を使用して、安静時とジピリダモール負荷により引き起こされた充血時の心筋灌流を測定した。これらの測定は治療前と治療12ヵ月後に施行した。
血圧低下は2つの治療グループ間で類似していた。ペリンドプリル群は外来の血圧において160/105mmHgから138/88mmHgに低下した(p<0.01)。アテノロール群は158/105mmHgから131/86mmHgに血圧が低下した(p<0.01)。
両薬剤とも安静時心筋灌流を減少させた。アテノロール群では0.91ml/g/minから0.67ml/g/minに減少した。ペリンドプリル群では0.95ml/g/minから0.84ml/g/minと減少量は少なかったが、心筋の仕事量(rate-pressure
productとして表現される)の変化を補正すると、治療間の差異はなかった。しかしながら、アテノロールは充血した心筋灌流をペリンドプリルに比して著しく減少させた。

さらに、アテノロールは充血した血管の抵抗をペリンドプリルに比して著しく増加させた。

これらの結果から、ACE阻害およびβ遮断は心筋循環に影響を与える方法に差異があると示唆される。この差異は血圧が同様に低下するにもかかわらず生じる。両薬剤は安静時心筋灌流を減少させる。しかしながら、アテノロールは充血した心筋灌流を著しく減少させる一方、ペリンドプリルは減少させない。アテノロールは充血した血管の抵抗をペリンドプリルと比して、増加させる。
これらの結果に基づくと、高血圧症の患者において心筋微小循環を改善する血管拡張治療が必要であることは明らかである。
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