心房細動に対するクラス1c群抗不整脈薬の効果は心房有効不応期の延長と伝導速度の低下によると考えられてきたが、肺静脈と肺静脈―左房接合部に対する効果については検討されていない。
堀川博士らは、過去にビーグル犬を用いた心房性不整脈モデルを作成した:肺静脈へのアコニチン塗布により規則的な肺静脈頻拍を誘発し、この頻拍中に迷走神経刺激を加えると心房細動が誘発されることを示した。
今回の実験はこのモデルを用いて、肺静脈起源性心房細動に対するピルジカイニドの効果について検討した。麻酔開胸犬27頭(右側:n=20、左側:n=7)において右または左肺静脈にアコニチンを塗布し、両側迷走神経刺激を行い心房細動の誘発を行った。
針電極を心房、肺静脈に刺入し、128極プラーク電極を右房自由壁に置き、電気生理検査をピルジカイニド 1mg/kg/5min投与前後に行った。


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双極針電極を心房、肺静脈、心室に刺入した。 |
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128極のプラーク電極を右房自由壁に置き、心房内伝導速度を測定した。 |
肺静脈頻拍中の迷走神経刺激により、27頭中6頭を除く21頭で持続性心房細動(平均周期長61.2ms)が誘発された。
ピルジカイニド投与前の心房細動は各記録部位とも不規則で短い周期長を示していた。 |
ピルジカイニドにより21頭中20頭で持続性心房細動は停止した(95%)。明瞭な肺静脈電位の記録が得られた6頭においては、ピルジカイニドにより肺静脈頻拍の周期は158msから309msへ、PV-LA間隔は41.4msから57.5msへ延長した。
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迷走神経刺激により肺静脈頻拍は27頭中21頭において持続性心房細動に変化したが、6頭では持続性心房細動は誘発されなかった。 |
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ピルジカイニドにより持続性心房細動21頭中20頭において心房細動は停止した。 |
ピルジカイニドにより心房細動が停止した際の記録。心房および肺静脈の興奮間隔は延長し、興奮波はオーガナイズし心房細動は停止、肺静脈頻拍となった。 |
予期したとおり、心房有効不応期は延長し(90.0msから107.5ms)、心房内伝導速度は低下した(73.2cm/sから55.2cm/s)。
ピルジカイニド投与後、心房頻回刺激を行った20頭中3頭で持続性心房細動が、12頭で非持続性心房細動が誘発された。心房細動停止直前には肺静脈―心房解離が6頭において認められた。

ピルジカイニド投与後再誘発された非持続性心房細動の記録。肺静脈の高頻度興奮が認められるが、心房興奮間隔は長い。 |
再誘発された心房細動中、肺静脈の高頻度興奮が認められたのは、持続性心房細動では3頭すべてであったが、非持続性では12頭中1頭のみであった。ピルジカイニドの血中濃度は2.13μg/mLであった(therapeutic
range 0.3〜0.9μg/mL)。
心房刺激により4頭のみで肺静脈頻回興奮が発生し、心房細動が誘発された(持続性3、非持続性1)。
肺静脈頻回興奮が発生しなかった残りの16頭では持続性心房細動は誘発されなかった。 |

本実験において、肺静脈起源性心房細動モデルに対するクラスIc群薬ピルジカイニドの抗不整脈効果は心房のみならず、肺静脈、肺静脈―左房接合部を介することが示唆された。今後、心房細動に対する抗不整脈薬の効果を評価する際、このことを考慮する必要があるであろう。
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