AHA2003 Conference News

カルベジロールはβ受容体に非典型的に結合することによりβ遮断薬のリバウンド現象を予防する
Atypical Binding of Carvedilol to Beta Adrenoceptors Prevents Beta Blocker Rebound Phenomenon
演者顔写真 Michael Kindermann, MD
Universitätskliniken des Saarlandes
Homburg / Saar, Germany

カルベジロール、メトプロロール、ビソプロロールなどのβ遮断薬による治療はうっ血性心不全患者の死亡率を改善する。Carvedilol or Metoprolol European Trial(COMET)の結果によれば、カルベジロールの方がメトプロロールよりも優れていた。例えばカルベジロールはメトプロロールに対して心血管死を20%も低下させ、脳卒中による死亡率を67%低下させた。

カルベジロールが優れている1つの原因として、メトプロロールはβ1受容体のみを選択的に抑制するのに対して、カルベジロールは複数のアドレナリン受容体を抑制することが挙げられる。また、カルベジロールには抗酸化作用などの付随的な特質があるためとも考えられる。

もう1つ考えられうる説明として、カルベジロールの受容体への結合動態が非典型的であることが挙げられる。このβ遮断薬は心筋細胞膜にほぼ不可逆的に結合するという報告がある。このため、カルベジロールのβ抑制効果は血漿から消失した後も残存すると考えられている。

この仮説を検証するため、Kindermann博士らはカルベジロールもしくはメトプロロール投与中、およびそれらを突然中止した後の心臓のカテコラミン反応性を比較した。彼らは、ヒトの単離心房筋に電気的刺激を与えるin vitroの実験を行った。また、7人の健常ボランティアにおいてin vivoの実験も行った。

In Vitro の実験

彼らは、電気的に刺激されたヒトの単離心房筋がisoproterenolに反応してどの程度収縮するかを、β遮断薬投与前、投与中、および中止後に測定した。

β遮断薬投与中は、コントロールと比べてisoproterenolの効果は有意に低下した。これはカルベジロールでもメトプロロールでも確認された。

しかし、心房筋をβ遮断薬の溶液から取り除いた際に、特筆すべき違いが認められた。β遮断薬を除去した後、メトプロロールではisoproterenolの効果はベースラインまで戻ったのに対し、カルベジロールではisoproterenolの効果は低下したままであった。この違いは非常に意味がある、とKindermann博士は述べた。

In Vivo の実験

7人の健常ボランティアに50mgのカルベジロールと190mgのメトプロロールを10日間投与する無作為交差試験を行った。被験者には全員、投薬前、投薬中、投与44時間後にドブタミン負荷エコーを行った。

カルベジロールとメトプロロールの投与中の血漿中濃度は治療域内であった;44時間後の測定では、血漿中の濃度はいずれのグループでも感度以下であった。

治療中の心拍数は両グループとも同程度であった。全ての被験者でドブタミン負荷中の心拍数の低下は有意であった。しかし、投薬中止後、メトプロロール群では心拍数はベースラインまで戻ったのに対し、カルベジロール群ではβ抑制作用が残っていた。

同様に、ドブタミンによる心拍出量は両群で異なっていた。すなわち、メトプロロール中止44時間後では心拍出量はベースラインまで戻っていたのに対し、カルベジロール中止後では心拍出量は低下したままであった。

心拍数補正した円周短縮速度(VCFc:velocity of circumferential fiber shortening)については、メトプロロール中止後では、このパラメータはベースラインまで戻っていたのに対し、カルベジロール治療群では中止後も低下したままであった。

これらの結果より、カルベジロールのβ抑制効果は血漿から消失した後も長期間持続することがわかる。これは、カルベジロールが受容体に結合し続けているためであろう。

以上の結果より、カルベジロールはβ遮断薬のリバウンド減少を予防することができる。投薬中止44時間後でもそのβ抑制効果は残っている。カルベジロールは他のβ遮断薬ほどコンプライアンスは重大な問題ではない。患者が時に飲み忘れたときでさえ、β抑制効果は保たれるからである。

Abstract: 1725


レポーター:Andrew Bowser
日本語翻訳・監修:京都大学大学院医学研究科循環病態学 尾田知之

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