アンジオテンシンIIは炎症や血管平滑筋の増殖を促進することが研究により示されている。この現象は特に血管損傷の後に起こる。これらの知見は、アンジオテンシンIIが再狭窄の一因である可能性を示唆している。さらに、高用量のACE阻害薬投与により新生内膜形成が減少することが動物実験で示されている。
しかし、最近の試験では、臨床的にACE阻害薬が再狭窄に影響を与えることを示したものはない。これは、おそらく副作用の懸念から、ACE阻害薬の全身投与量が再狭窄に作用する用量としては少なすぎるためであろう。そこで、ACE阻害薬の全身投与に替わる戦略として、薬剤をコートしたステントを用いた局所デリバリーがある。この方法によって、全身への副作用を最小限に抑えながら、高用量の薬剤を局所的に投与することが可能であろう。
このため、Wang博士らは、バルーンによる血管損傷を加えたウサギのモデルにおいて、ACE阻害薬のステントデリバリーの研究を行った。彼らは、ペリンドプリルが、損傷を受けた部位における新生内膜形成と炎症を抑制するであろうとの仮説を立てた。
彼らは、8頭のニュージーランドシロウサギの大動脈に、ペリンドプリル含有の微小球体が埋め込まれたチャネルステントを留置した。このステントは、28日間、2mg/日の用量でACE阻害薬を放出する。他の8頭のウサギには、ACE阻害薬を含有していないステントを留置した。その後、ステントを留置した大動脈にバルーンによる損傷を加えた。さらに、実験期間中、高コレステロール食餌を与えた。
これらのウサギにおいて、in vitroにおける機能分析および、内膜・中膜比の形態学的分析、炎症細胞局所浸潤の評価、平滑筋細胞増殖の評価を行った。
In vitroにおける機能分析:分析の結果、ペリンドプリル含有ステントは、有意なACE阻害作用を示した。この作用は、経時的に緩やかな漸減を示したものの、25日間の分析を通して維持されていた。
プラーク形成程度:内膜・中膜比の平均値は、コントロール群に比し、ペリンドプリル群で有意に低かった。この結果は第7日、第28日どちらの分析においてもみられた。
内膜・中膜比
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Control |
Perindopril |
P value |
Day 7 |
0.12 |
0.02 |
< 0.01 |
Day 28 |
1.42 |
1.04 |
< 0.01 |
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炎症細胞局所浸潤の評価:第7日において、内膜の白血球数は、コントロール群に比しペリンドプリル群で有意に低かった(p<0.01)。
平滑筋細胞増殖の評価:平滑筋増殖の測定にPCNA免疫組織染色法を用いた。PCNA陽性細胞数は、ペリンドプリル群とコントロール群で有意な差はみられなかった(p=0.65)。

この研究は、高用量のペリンドプリルを局所的に調節して投与することによって、平滑筋細胞を増殖することなく、新生内膜形成と炎症とを抑制し得ることを示した。さらに、これらの結果は、「ACE阻害薬は、平滑筋細胞形成の抑制というよりむしろ、平滑筋細胞遊走の抑制によって、新生内膜形成を減少させている」というこれまでの研究成果を支持している。
Wang博士は、今後の臨床試験において、ACE阻害薬ステントデリバリーの、ACEやアンジオテンシンII作用に対する抑制効果が評価されるであろうと述べた。
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