急性心筋梗塞後のカルベジロール治療とリモデリング:時間経過とともにみられる種々の効果と想定される機序。CAPRICORNエコーサブスタディ

Carvedilol and Left Ventricular Remodeling Following Acute Myocardial Infarction: Variable Effects Over Time and Possible Mechanisms. The CAPRICORN Echo Substudy

R. N. Doughty, MD
University of Auckland
Auckland, New Zealand


アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)は、慢性心不全、さらには心筋梗塞後の左心機能が低下した患者において、左室のリモデリングを改善することが、今までの確証された結果によって示唆されている。

カルベジロールもまた、心不全の患者においてリモデリングを改善する。カルベジロールは、心不全および心筋梗塞後のリモデリングを改善することを示すデータがある。しかし、心筋梗塞後のカルベジロールを使用した研究データは、ACE阻害薬を併用していない。心室のリモデリングに関して、ACE阻害薬に加えたカルベジロールの効果を示すデータはなかった。

研究者らはこのデータの食い違いを満たすための研究を開始した。これはCAPRICORN(Carvedilol Post-Infarct Survival Control in Left Ventricular Dysfunction)試験のサブスタディだった。この研究の目的は、ACE阻害薬に加えカルベジロールを投与された心筋梗塞後の患者群において、収縮間末期容積(ESV)の変化を示すことであった。調査員らは治療前、1ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後に、二次元のエコーで計測した。

このサブスタディには、カルベジロールを投与された58人とプラセボを投与された67人が含まれている。これまでのリモデリングを扱った心筋梗塞後の研究とは対照的に、多数の患者に心筋梗塞や心不全の既往があった(それぞれ約25%と42%)。

ACE阻害薬にカルベジロールを加えたところ、著明に心拍数は減少した。1ヵ月後には、プラセボを投与した群に比べて約8bpmも心拍数が減少した。3ヵ月後には12bpmの心拍数が減少した。この効果は6ヵ月後には多少弱まり、結局8bpmの減少となった。

1ヵ月後には、著明な収縮期および拡張期血圧の減少があった。また1ヵ月後にはプラセボと比較して、血圧の低下を認めた(収縮期で6.6mmHg、拡張期で7.2mmHgの相違)。3ヵ月後まで収縮期血圧に対する効果は持続したが、拡張期血圧はカルベジロール投与群とプラセボ投与群でほぼ同等となった。

またACE阻害薬にカルベジロールを加えると、左室収縮末期容量(LVESV)の減少を1ヵ月後に認めた。プラセボ群では早期に増加し、カルベジロール群では早期に減少した。これらの効果は、おそらくカルベジロール群ではさらにやや減少して、6ヵ月後も持続した。最終的に、この計測においては、6ヵ月後に11%の減少を認めた(p=0.037)。

さらに、ACE阻害薬にカルベジロールを加えると、いくらか左室拡張末期容量(LVEDV)の増加が抑制された。6ヵ月後には、その違いは約5%で、およそ7mLの容量の減少がカルベジロール投与群で認められた。

1ヵ月後には早期の駆出量(SV)の改善を認めた。これは3ヵ月後まで続いた。プラセボ群でも次第に駆出量の増加を認めたため、6ヵ月後には統計学的に有意な違いは認められなかった(p=0.053)。

同じように、左室駆出率(LVEF)も早期に改善し、この効果は治療期間中、持続した。結局、プラセボ群と比較して、4%の改善を認めた(p=0.0037)。また早期に壁運動が低下した。この改善は次第に弱まり、6ヵ月後には統計学的な相違は認めなかった。

この結果から、カルベジロールは治療期間により、異なった治療効果を与えることが示唆された。

心拍数、血圧、駆出量(SV)、左室駆出率(LVEF)および左室収縮末期容量(LVESV)の早期、時には劇的な改善は、カルベジロールのβ遮断作用と血管拡張作用の両方の作用による。

血管拡張作用は、心拍数、血圧および駆出量(SV)の減少で認められたように、時間とともに弱められるようだ。これはまた、左室収縮末期容量の改善で最も明らかなように、カルベジロールのβ遮断作用を示している。

 

レポーター:Andrew Bowser
日本語翻訳・監修:京都大学大学院医学研究科循環病態学 大野聖子