うつ病は、冠動脈疾患(CAD)において肥満や運動不足と同様に潜在的な新しい危険因子の一つである。うつ病はCADの原因とはならないかもしれないが、うつ病を治療することはCAD患者に意味があるかもしれないというエビデンスが出てきた。
入院中のCAD患者には、大うつ病の有病率が高く、一般入院患者の少なくとも3倍多いというデータがある。これは、心筋梗塞や不安定狭心症、うっ血性心不全、インターベンション後の患者群についてもいえる。
興味深いことに、小うつ病も同様に、入院中のCAD患者では約3倍多い。このことは、入院中のCAD患者の約3分の1は、ある程度のうつ状態になっていることを示唆している。
どのCAD患者がうつ病を発症するかを推測することは難しい。しかしながら、女性や若年者、社会的援助の乏しい患者、重症なCAD患者において多くみられる。
何がうつ病を引き起こすのかは正確にはわかっていないが、遺伝素因や不健康な生活様式、ストレスなどの組み合わせによる生理的な影響が言われている。ストレスとなる出来事や慢性的なストレスが生理的に影響し、神経内分泌機能を障害することにより、うつ病を引き起こす。
おそらく、うつ病の原因とCADとは関連があると思われる。ただ、うつ病がCADの原因となるかは不明である。しかしながら、うつ病における神経内分泌機能の障害は、動脈硬化にかかわる血小板の変化や炎症、自律神経系に影響を与えるかもしれない。
Frasure-Smith博士らは、急性冠動脈疾患の心理社会面の研究を行った。対象は、通常の治療を受けた心筋梗塞後の患者896人と不安定狭心症の患者430人である(女性は31%)。
博士らは、うつ病は、他の主な心血管危険因子を治療した後でも、1年後の予後に強い影響を及ぼすことを見出した。その影響は最初の6ヵ月で最も大きく、その後、多少減少した。

また、うつ病の用量反応相関も指摘し、うつ病がより重症であるほど予後が悪いことを示した。

うつ病の重症度とCAD患者の予後との相関を示す研究はこれだけではない。1996年、American Journal
of Cardiology誌に、1,250人の心臓カテーテル検査を受けた患者においてうつ病の重症度を調べた研究が報告された。軽度のうつ病患者に比べ、中等度から重度のうつ病患者の方が死亡率は高かった。また、他の心血管危険因子を治療した後でも、遠隔期の死亡率はうつ病の患者において有意に高いと報告している。
このような一連の結果は、高齢者に対する最近の研究でさらに明らかになってきた。2001年、Archives of
General Psychiatry誌に、狭心症や心筋梗塞、うっ血性心不全の病歴をもつ55〜85歳の患者を対象とした研究が報告されている。
しかし、うつ病を治療することがCADの予後を改善するかどうかを調べた前向き研究は、まだない。Frasure-Smith博士は、今回の報告は追加の研究を行うのに十分なエビデンスとなると主張している。この事実に基づき、医師は、CADと診断された患者において、うつ病は一つの危険因子であるということを考慮に入れるべきである。
レポーター:Andrew
Bowser
日本語翻訳・監修:京都大学大学院医学研究科循環病態学 牧山 武 |
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