カルベジロールは、現在、うっ血性心不全の治療に用いられるβ遮断薬の中でも最も広く用いられている。カルベジロールはうっ血性心不全患者の予後を明らかに改善し、特にNYHA
III-IV度の重症うっ血性心不全の生命予後を劇的に改善することが最近の大規模臨床研究の結果、明らかとなった。
薬理上、カルベジロールは、β遮断薬としての作用のみでなく、β遮断作用や抗酸化作用をもつことが知られていたが、心筋細胞のCa2+のハンドリングにより心機能に重要な役割をもつCa2+-ATPase遺伝子の発現に及ぼす効果を検討した研究はこれまでにない。
小板橋博士らは、心臓のポンプ機能の調節に重要なCa2+-ATPase遺伝子の発現を解析することによって、カルベジロールの作用機序を検討した。
彼らは、まず、培養ラット胎児心筋細胞を用いて、Ca2+-ATPase遺伝子の発現が過酸化水素の添加によって転写レベルで減少することを見出した。そして、カルベジロールが、過酸化水素によるCa2+-ATPase遺伝子の転写抑制を減弱し、mRNAおよびタンパクレベルでも過酸化水素の効果を抑制することを明らかにした。

カルベジロールのこうした作用は、遮断作用をもたないカルベジロール代謝物BM910228でも認められたことから、カルベジロールがもつ、過酸化水素の影響を減弱させる作用、つまり、抗酸化作用はβ遮断作用とは独立した作用であることが明らかとなった。

さらに、β1選択的な遮断作用をもつメトプロロールでは、カルベジロールの示す効果は認められなかった。

本研究では、酸化ストレス負荷として過酸化水素を用いているが、ノルエピネフリン、エンドセリン-1やアンジオテンシンIIなど心不全の病態に深く関与する因子の添加にても心筋細胞中で同様に酸化ストレスが産生されることから、心不全におけるカルベジロールの作用機序として、今回の発見は意義が大きいと考えていると結んだ。
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