多くの頸動脈狭窄症患者が虚血性脳卒中の予防のためにCEAを受けている。AHAではCEA(carotid endarterectomy
: 頸動脈血栓内膜切除術)の明らかな手術適応として症候性の患者では70%以上の狭窄としているが、50〜69%の狭窄も適応として認めている。
NASCET(North American Symptomatic CEA Trial)では症候性頸動脈狭窄症の内科治療における同側の脳卒中再発率は2年間で26%であり、CEA群では9%であった。
また30日時点での手術合併症は死亡1.1%、重篤な脳卒中は1.8%、軽微な脳卒中が3.7%であった。さらに手術創に伴う合併症が約10%、術野の脳神経障害が9%にみられた。
ステント留置術はCEA以外の治療手技であるが、soft plaqueや新鮮な血栓を伴う病変、あるいは大動脈にplaqueが存在するような症例では合併症率が高い。これはステント留置手技により動脈硬化巣がちぎれて脳塞栓を来すためである。このような症例ではCEAを行うべきである。
CEAとCAB(coronary artery bypass : 冠動脈バイパス術)の双方を必要とする患者の治療をどうするかについては議論のあるところである。このような患者においては脳血管障害や、心筋梗塞、死亡など様々な危険について考慮する必要がある。
最近では体外循環を使用しない冠動脈バイパス手術(off-pump CAB)が導入され、神経合併症を低減することがわかった。国立循環器病センターにおけるoff-pump
CABでは神経合併症率は0%であった。一方、従来の体外循環使用のバイパス術では神経合併症は6.4%であった。このようにoff-pump
CABはCEAと冠動脈バイパス術の双方が必要な患者の全体の治療リスクを低減するのに非常に有用である。
Off-pump CABの合併症(国立循環器病センター)
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Off-pump(n=95) |
On-pump(n=63) |
手術時間(分) |
351 ± 85 |
450 ± 112 |
挿管時間(時間) |
5.1
± 2.8 |
13.7
± 17.9 |
ICU滞在(日) |
3.0
± 1.4 |
3.6
± 1.8 |
神経学的合併症 |
0.0% |
6.4% |
心房細動 |
20.0% |
17.5% |
周術期心筋梗塞 |
14.7% |
11.1% |
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脳血流低下が高度な患者においては頭蓋内外バイパス術は脳血流を増加させ、脳虚血発作の再発を予防することが期待され、日本では無作為比較試験が行われている。
このJET(The Japan EC-IC Bypass Trial)ではすでに280症例が登録され2年間の経過観察が行われている。
登録条件は73歳以下で3ヵ月以内にTIAやminor stroke を来した症例であり、内頸動脈や中大脳動脈の高度狭窄〜閉塞例であり、頸部内頸動脈狭窄例は除外される。脳血流は正常の80%以下に低下し、アセタゾルアミド血管反応性が10%以下に低下していることが条件である。
中間報告ではEC-ICバイパス術の有効性が示されており、今後、虚血性脳血管障害の治療法の一つとして見直されることが期待される。
レポーター:Andrew
Bowser
日本語翻訳・監修:国立循環器病センター脳神経外科部長 永田 泉
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