過去の報告では、アルコール摂取が発作性心房細動の独立した危険因子であることが知られている。この機序についてはいまだ明らかではないが、アルコールにより急性のイオンチャネル再構成(リモデリング)が生じる可能性が考えられる。
このアルコール誘発性心房細動の機序を知るために、山下博士らは新しいラットモデルを開発し、このモデルを用いて純粋なNaチャネル遮断薬であるピルジカイニドの抗不整脈効果を検討した。
博士らはエタノール(0〜4.4g/kg)とシアナミド(0〜200mg/kg)の腹腔内注射を行い、KチャネルおよびHCNチャネルの遺伝子発現を検討し、ランゲンドルフ灌流下における電気生理学的検討と比較している。
アルコール投与により単発の心房期外刺激による反復性心房興奮の数は平均4.8から23.2に増加し、心房不応期は32msから23msへ、洞周期は259msから207msへと短縮した。

ピルジカイニドは用量依存的に刺激による反復性心房興奮の数を減少させた。ピルジカイニドは用量依存的に心房不応期、心房内伝導時間を延長させており、この反復性心房興奮抑制効果はwavelength
indexの変化とは無関係であることが示唆された。

ほとんどのラットでピルジカイニドは反復性心房興奮を抑制したが、15頭中2頭(13%)で自然停止しない規則的な心房頻拍が誘発されるようになった。
山下博士らは、Kv1.5およびHCN4チャネルのアップレギュレーションを伴うアルコール誘発性ラット心房細動モデルの開発に成功した。またこのモデルで純粋なNaチャネル遮断薬であるピルジカイニドは十分にこの頻脈性不整脈の抑制効果を示した。これらの事実は、アルコール誘発性心房細動に対する現状の治療法が妥当であることを示すと同時に、このような病態の背景にある機序を考察する機会を与えてくれる。
レポーター:Andrew
Bowser
日本語翻訳・監修:(財)心臓血管研究所第三研究部長 山下武志 |
|