リスクの高い高齢者に対するプラバスタチン治療に関する前向き臨床試験:PROSPER試験の結果
The Prospective Study of Pravastatin in the Elderly at Risk: The Results of PROSPER

James Shepherd, MD
University of Glasgow
Glasgow, UK


現在、全世界で65歳以上の高齢者の数はおよそ1億5千万人にのぼると推定されている。この数はさらに30年以内に3億人に達すると予測される。それに伴って、当然、心臓発作、脳卒中、機能不全、社会に対する依存性、痴呆なども増加してくると思われる。

スタチン臨床試験において検討を必要とする最も緊急な課題は、本薬の高齢者に対する有効性である。スタチンは中年層の患者では有病率、死亡率を減少させるうえで明らかに有効であることが確立しているが、高齢者に対するその有効性と安全性はいまだ明確でない。

PROSPER試験(PROspective Study of Pravastatin in the Elderly at Risk[リスクの高い高齢者に対するプラバスタチン治療に関する前向き臨床試験])はスコットランド、アイルランド、およびオランダからそれぞれ1施設を選んで行った国際的臨床試験である。本試験の目的は、スタチン治療が高齢者においても血管病のリスクを減少させるかどうかを検討することであった。

本試験では、70〜82歳の患者5,804例(女性3,000例、男性2,804例)が組み入れられ、無作為にプラバスタチン1日40mg投与群とプラセボ群に割り付けられた。

約半数の患者は血管系疾患の既往を有し、残り半数の患者は糖尿病、高血圧、喫煙などの危険因子をもっており、血管系疾患の高度ハイリスク患者と考えられた。すべての症例は試験開始時には認知機能に問題はなかった。

高齢者を対象とした試験であるため、試験の追跡期間は3.5年を超えないこととした。対照的に、ほとんどのスタチン試験は5年間あるいはそれ以上にわたって追跡が行われているのが現状である。したがって、PROSPER試験では死亡率の改善効果は期待できず、スタチンの有病率減少効果の評価が目的とされた。本試験の主要エンドポイントは、冠動脈疾患による死亡、心筋梗塞、および脳卒中(致死的、非致死的にかかわらず)の複合発生頻度であった。

プラバスタチンは、LDLコレステロールを34%減少させたことに加えて、血管系イベントを複合した上記の主要エンドポイントを15%低下させた。イベントの発生数はプラバスタチン群で408件、プラセボ群で473件であった(p=0.014)。発表者のShepherd博士によると、冠動脈疾患による死亡、心筋梗塞、あるいは脳卒中1症例を阻止するために48例の患者を治療する必要があるということである。

最大の効果は冠動脈にみられた。致死的および非致死的心筋梗塞は19%減少し、冠動脈疾患による死亡に限ると24%の減少が認められた。

過去の試験ではスタチン治療によって脳卒中が抑制される可能性が示されている。しかし、この効果は治療開始後5年あるいはそれ以上経たなければ明らかではない。PROSPER試験の平均患者追跡期間は3.2年であり、脳卒中のリスクに対する効果は明らかにされなかった。この所見から、上記イベントのリスクが高い症例において短期間の治療では脳卒中を阻止することはできないことが示唆される。

脳卒中の減少に関しては効果が認められないことから、認知機能の改善がもたらされる可能性は少ないと考えられた。事実、プラバスタチンによって高齢者にみられる進行性認知機能低下が抑制されたり加速されることはなかった。

安全性の解析では他の薬物とプラバスタチンの併用による副作用の増加は認められていない。患者は1日平均3.6、極端な例では16の異なった薬物を服用していた。それにもかかわらず、筋障害、横紋筋融解症、肝機能障害などが増加したり発症したという所見はなかった。

結論として、Shepherd博士をはじめとしてこの試験の研究者らは、PROSPER試験の成績は高齢者にとって福音となると信じている。この試験結果から、最近中年患者に適応とされているスタチン治療が高齢者にも等しく適応となるといえる。

レポーター: Andrew Bowser
日本語翻訳・監修: 浜松労災病院院長 篠山重威