軽度から中等度慢性心不全患者におけるカルベジロールとスピロノラクトンの併用効果
The Effect of the Concomitant Use of Carvedilol and Spironolactone in Patients with Mild to Moderate Chronic Heart Failure

Takahisa Yamada, MD
Manager
Division of Cardiology
Osaka Prefectural General Hospital
Osaka, Japan


多くの大規模臨床試験で、カルベジロールは慢性心不全患者の予後を改善させることが示されている。これらの患者におけるカルベジロールの効果には、左室機能障害の改善や頻脈性心室性不整脈の減少効果がある。

ある大規模臨床試験では心不全の標準療法施行中の重症心不全患者においてアルドステロン受容体遮断薬が死亡率・発病率をかなり減少させることが示されている。

しかしながら、慢性心不全患者におけるカルベジロールとアルドステロン受容体遮断薬であるスピロノラクトンの併用効果を検討した報告はない。そこで山田博士らはそのうちの何人かがスピロノラクトンをすでに服用している軽度から中等度慢性心不全患者において、カルベジロールとスピロノラクトン併用療法が左室機能、心室性不整脈や神経体液性因子に与える効果を検討した。

前向き二重盲検試験で73例の安定した、左室駆出率が40%未満の患者をカルベジロール群とプラセボ群に無作為に割り付け、1年間フォローアップした。カルベジロールの平均投与量は19mg/日であった(初期量は2.5mg/日でその後漸増し20mg/日を目標量)。約半分の患者がエントリー時スピロノラクトンを服用していた(平均投与量は31mg/日)。

1年間フォローアップできたのは66例であった。カルベジロール群の3例は試験を中断し、1年のフォローアップの間にカルベジロール群では2例に、プラセボ群では2例に心血管死が認められた。残りの患者では31例(このうち17例はスピロノラクトン服用)がカルベジロールを服用し、35例(このうち21例はスピロノラクトン服用)はプラセボを服用していた。これらの4群(併用群、カルベジロール単独群、スピロノラクトン群、プラセボ群)には臨床的特徴、エコー検査データに有意差はなかった。

対象患者の平均年齢は65歳で、79%が男性であった。ほとんどの患者はACE阻害薬とジギタリスを服用し、約30%の患者は抗不整脈薬を服用していた。平均の左室駆出率は31%でNYHAクラスは平均II度であった。心不全の原因の62%は虚血性であった。

カルベジロールとスピロノラクトン併用療法群とカルベジロール単独群ではエントリーから1年後に6分間歩行距離が有意に改善した(p<0.05)が、その他の2群では有意な変化は認められなかった。

エコーデータ解析では併用療法群で1年後に左室拡張末期径の有意な減少が認められた(60.5〜57.5mm、p<0.05)。カルベジロール単独群では左室拡張末期径に、有意ではないが減少傾向が認められた。残りのプラセボ2群では有意な変化は認められなかった。

併用療法群とカルベジロール単独群ともに1年後に心プールの左室駆出率が有意に改善したが、その改善の程度は併用療法群で有意に大きかった。

併用療法群では1年後にLown's gradeが有意に改善したが(4.1〜3.6、p<0.05)、カルベジロール単独群、スピロノラクトン単独群ではLown's gradeに変化は認められず、プラセボ群ではLown's gradeの増悪を認めた。それと同様に心房利尿ペプチドの血漿濃度も併用療法群でのみ有意に減少していた。

これらの結果より、カルベジロールとスピロノラクトン併用療法はカルベジロールやスピロノラクトン単独療法より有効であることが示唆される。軽度から中等度の慢性心不全患者においてその併用療法は各々単独療法より左室機能の改善、reverse remodeling、心室性不整脈や神経体液性活性の抑制という点において有意な利益をもたらしうるものと思われる。

 

レポーター:Andrew Bowser
日本語翻訳・監修:大阪府立病院心臓内科医長 山田貴久