ACE阻害薬内服に加えβ遮断薬内服を追加することは、左室収縮機能障害を有する心不全患者において有効であるが、その作用機序は明らかではない。
左室収縮機能障害を有する心不全患者においてβ遮断薬の生化学的役割について評価するために、多国間の多施設二重盲検無作為比較試験が行われ、血漿レニン活性および血漿アルドステロン濃度測定が行われた。この試験はCarvedilol
Hibernation Reversible ISchaemia Trial:MArker of Success(CHRISTMAS)と名付けられた。
CHRISTMASには虚血性左室収縮機能障害を有する心不全患者(NYHA クラス I、II、III)が含まれる。うち約60%の患者に左室機能異常を持続させる冠動脈低灌流領域(冬眠心筋)所見を認めた。この試験の目的は、冬眠心筋の存在により左室駆出率の改善度が予測できるかどうかを検討することである。
CHRISTMASのすべての患者はACE阻害薬を含む標準薬を、副作用のない限り内服し続けた。患者は6ヵ月間プラセボかカルベジロール内服群のどちらかに無作為に振り分けられた。最初の2ヵ月間で6.25、12.5、25、50mg/日のいずれか各人可能な限り最も高用量まで増量され、あとの4ヵ月間維持内服とされた。
最終的に305人の患者(カルベジロール142人、プラセボ163人)が検討されることとなった。平均年齢は約62歳で、平均の左室駆出率は約30%であった。ACE阻害薬は約87%の患者で内服投与された。
CHRISTMASの主な結果はすでに報告されている。全患者で平均の左室駆出率はプラセボ群に比べカルベジロール内服群で有意に上昇した(2.8%の増加
対 0.4%の減少;p=0.0001)。重要なこととしては、冬眠心筋と左室駆出率の改善度との明らかな相関が見出されたことにある。左室駆出率変化と冬眠心筋範囲との間には有意な正相関が認められた(p=0.009)。
今回のAHAでCleland博士はCHRISTMASでの242人の血漿レニン活性について新たに報告した。血漿レニン活性はカルベジロール群で低下傾向がみられた。血漿レニン活性はプラセボ群で平均2µU/mL増加したのに対し、カルベジロール群では平均38µU/mL減少するのが認められた。これは統計学上有意であった(p=0.054)。

また、188人の血漿アルドステロン濃度についても報告された。血漿アルドステロン濃度もカルベジロール群で低下傾向がみられた。血漿アルドステロン濃度はプラセボ群で変化がなかったのに対し、カルベジロール群では平均0.05nmol/L減少するのが認められた(p=NS)。

さらに、血漿レニン活性低下と血漿BNP濃度増加の間に逆相関がみられた。これは、プラセボ群よりもカルベジロール群で強く認められた。

以上の結果により、カルベジロールとACE阻害薬内服を併用することは、どちらか単剤内服よりも有効であることが部分的には説明できる可能性がある。ACE阻害薬内服により血漿レニン活性が増大し、結果としてACE阻害薬の作用が弱められる可能性がある。しかし、本研究でみられるように、一方でカルベジロール内服追加により血漿レニン活性が減少し、さらに血漿アルドステロン濃度が低下することでACE阻害薬の作用が高められる可能性が期待できる。
このように、ACE阻害薬とβ遮断薬併用の心不全に対する作用機序に言及した意義深い示唆に富んだ臨床試験と考えられる。
レポーター:Andrew
Bowser
日本語翻訳・監修:京都大学大学院医学研究科循環病態学 宮本昌一 |
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