ヒト冠動脈バイパスグラフトをE2Fデコイを用いて遺伝子操作することによって臨床的グラフト不全が減少する
Genetic Manipulation of Human Coronary Artery Bypass Grafts with E2F Decoy Reduces Clinical Graft Failure
Eberhard Grube
The Heart Center
Siegburg, Germany

静脈グラフトの不全は、内膜の増殖に続いて動脈硬化が加速することによって高率に発生する(30〜40%)。この過程を阻止する可能性を持つ手段の一つとしてE2Fデコイを用いて遺伝子を抑制する方法がある。このデコイはE2F細胞周期転写因子に結合してそれを不活性化させるオリゴヌクレチドである。

この転写因子をブロックすることによって血管細胞の増殖と肥大、およびその後に生じる動脈硬化性病変が阻止される。さらに、遺伝子操作によってグラフトの壁厚の増大が誘導される。その結果、静脈は動脈と同様に機能することになり、長期にわたってより高い開存率が維持されることになる。

1999年のLancet誌にE2Fデコイに関する前臨床研究の結果が報告されている。この研究ではE2Fデコイが血管平滑筋の増殖を抑制し、下肢バイパスにおける静脈グラフト病変を抑制することが示された。

その後ドイツで行われた研究で、冠動脈バイパス手術を受けた200例の患者を対象にして、無作為にE2Fデコイかプラセボによる治療が行われた。今回、AHAミーティングで、E2Fデコイ群で静脈グラフト不全と死亡を複合したエンドポイントが30%有意に減少したことが報告された。

静脈内超音波検査によってE2Fデコイ群で血管壁容積が30%減少したことが認められた。これらの所見から、この治療により静脈グラフトのバイオロジーが修飾され、動脈硬化により抵抗性となるという仮説が支持されると結論された。

この治療は安全で忍容性も良く、有害事象に関してはプラセボ群と差が無かった。グラフトのE2Fデコイによる処置は体外で行われるので全身的な影響は最小限に留まる。

E2Fデコイ治療群では重大な心臓有害事象は少ないことが示唆されるが、この点に関しては統計的に有意差は示されていない。次のステップとして冠動脈バイパスグラフトを受けた患者で決定的な第3相試験を行う計画があるという。


レポーター:Andrew Bowser
日本語監訳:浜松労災病院院長 篠山重威