特発性拡張型心筋症患者におけるMMP(マトリックス分解酵素)およびTNF-α(腫瘍壊死因子-α)の血中活性の関係:心マトリックスリモデリングに対するβ遮断薬の効果
Circulating Tumor Necrosis Factor-Alpha and Matrix Metalloproteinase Activities in Patients With Idiopathic Dilated Cardiomyopathy: Effects of Beta-Blocker on Cardiac Matrix Remodeling
Tomoaki Ohtsuka, MD
Ehime University School of Medicine
Ehime, Japan

過去の研究では、特発性拡張型心筋症においてMMP(マトリックス分解酵素)心筋活性が上昇していることが示された。さらに、実験的研究によって、炎症性サイトカインTNF-αが心筋のMMP活性を刺激し、心筋における細胞外マトリクスを変質させることも示されている。しかし、特発性拡張型心筋症におけるMMPとTNF-αの血清レベルの関連性についての臨床研究は報告されていない。

以前、大塚博士らは、特発性拡張型心筋症患者に血中TNF-αが上昇していることを報告し、β遮断薬によってこの上昇を軽減できることを示した。今回のACCでは、MMPとTNF-αとの関連性をさらに明確にした。

研究は、特発性拡張型心筋症と診断された患者34例(女性6例、男性28例、平均年齢52歳)を対象に実施された。そのうち19例は、New York Heart Association心機能分類のクラスII、12例はクラスIII、3例はクラスIVであった。器質的心疾患や心機能障害の所見が認められなかった、年齢をマッチさせた10例を対照群とした。

34例中20例は、アンジオテンシンII受容体拮抗薬による最低6ヵ月間の治療に対する反応が不良であった。これらの20例には、他の併用療法に加えて非選択的β遮断薬であるカルベジロールを経口投与した。カルベジロールによる治療は2.5mg/1日2回より開始し、8週間にわたり各週ごとに漸増投与した。カルベジロールの平均最終用量は19.2mgであった。

特発性拡張型心筋症患者では、TNF-αおよびMMP-1の血清レベルが対照群に対して有意に高かった。MMP-3およびMMP-9の血清レベルも対照群に対して有意に高かった。

特発性拡張型心筋症患者では、MMP-9とTNF-αの血清レベルに有意な相関が認められた(r=0.764、p=0.01)。これは、このような状況を有する患者におけるMMPとTNF-αの血中レベルの相関に関する最初の臨床観察結果である。

特発性拡張型心筋症患者のMMP-1およびMMP-3のレベルは、TNF-αのレベルとは相関していなかった。しかし、MMP-1とBNPのレベルには有意な相関が認められた(r=0.647、p=0.022)。さらに、MMP-9の血清レベルは、ノルエピネフリンの血漿レベルと有意な正の相関関係にあった。

6ヵ月間の治療後に、カルベジロールが特発性拡張型心筋症患者におけるTNF-αおよびMMPのレベルの上昇を緩和したことは注目に値する。MMP-1およびMMP-9の高レベルは有意に減少したが、MMP-3のレベルに変化はなかった。

研究の最も重要な所見は、特発性拡張型心筋症患者におけるMMP-9の血中レベルの上昇とTNF-αレベルの上昇との間に密接な関連性があったことである、と大塚博士らは語った。博士らは、この状況を有する患者においては、TNF-αの上昇は、MMP、特にMMP-9の誘発に対する分子レベルでの惹起因子の一つでありうると考えている。その結果、特発性拡張型心筋症患者においては、カルベジロールがTNF-αのdownregulationによってMMP活性を減少させるとしている。

 

日本語監修:愛媛大学医学部第二内科 大塚知明