心不全患者ではしばしば心室内伝導障害が認められる。このため収縮同期不全や血行動態の障害がもたらされる。心室収縮同期に対してβ遮断薬がどのような影響を与えるのかは明らかでない。一つの仮説として、β遮断薬が左室の同期を改善する可能性がある。この効果によってβ遮断薬が左室駆出率を改善する可能性もある。
この仮説を証明するために、Dalle Mule博士のグループは左室収縮機能障害を有する患者で左室収縮同期に対するカルベジロールの影響を検討した。この報告はCarvedilol
Hibernation Reversible Ischemia Trial; Marker of Success(カルベジロール冬眠心筋可逆的虚血試験;成功のマーカー[CHRISTMAS])試験のサブ解析である。
CHRISTMAS試験の目的は冬眠心筋が存在するか否かによってカルベジロールの投与による左室駆出率の改善が予測できるかどうかを明らかにすることであった。患者は虚血性心疾患による左室収縮機能障害と心不全を有する者であった。
CHRISTMS試験の主要結果はすでに発表されている。カルベジロールの忍容性は良好で左室駆出率はプラセボ群に比して3.2%増大した(p=0.0001)。この治療効果は冬眠心筋の存在の有無にかかわらず認められた。しかし、効果の程度は駆出率が低値で冬眠心筋の容積が大きい患者で最大であった。カルベジロールはさらに心筋灌流を維持し、プラセボ群に比して生存心筋の消失を抑制した。
今回ACCにおいて、Dalle Mule博士はCHRISTMS試験に登録された164例の患者で心室内伝導障害を有する患者でサブ解析を行った。無作為化を行った時点とカルベジロールとプラセボによる治療が終了した時点で核医学による左室造影が行われた。患者の平均年齢は63歳で、92%が男性であった。
心室間同期不全または左右心室の平均位相角の違いはプラセボ群ではベースラインと最終診察時で差がみられなかったが、この測定値はカルベジロール群では改善がみられた。最終診断時における心室間同期不全はプラセボ群に比してカルベジロール群で有意に少なかった(p=0.015)。博士はこの同期性の改善が収縮の改善に関係すると語った。
心室間同期障害(平均位相角の差、左室−右室)
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ベースライン |
最終診察時 |
p値 |
カルベジロール |
12.9 |
9.7 |
0.04 |
プラセボ |
11.4 |
12.3 |
NS |
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心室内同期不全の程度または平均位相角の標準偏差も検討され、左室心室内同期不全には有意な改善がみられたが、プラセボ群では変化がみられなかった。カルベジロール群、プラセボ群両者において右室心室内同期不全には変化がみられなった。
心室の同期不全は虚血性心疾患を有する患者ではしばしば認められる。この試験ではカルベジロールによって心室間同期不全および左室心室内収縮同期を改善することが示された。これらの所見は、なぜ虚血性心疾患患者においてカルベジロールが左室機能を改善するかという新しい機序を示すものである。
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