β遮断薬は心筋梗塞の標準的治療である。しかし、心不全や左室機能障害を有する患者におけるβ遮断薬の安全性と有効性を検討したデータは限られている。Carvedilol
Post-Infarct Survival Control in Left Ventricular Dysfunction(カルベジロールによる心筋梗塞後左室機能障害生存率コントロール:CAPRICORN)試験には特に上記の病態(左室機能障害)を有する患者が組み入れられた。
この試験では総死亡の23%の減少が認められた(p=0.03)。一方、死亡と心血管病による入院とを複合したリスクの減少はわずかに8%に止まった(p=0.3)。この解離を解明するためにSachner-Bernstein博士のグループはCAPRICORN試験のデザインを過去に行われた試験のデザインと比較した。これらの試験は心不全と左室機能障害を有する患者でβ遮断薬やACE阻害薬などの薬物の効果が検討されたものである。
博士らはCAPRICORNで評価したエンドポイントは他の試験のものと変わりなく、死亡と心血管病による入院であった。しかし、エンドポイントの定義は他の試験に比べて実際により幅広いもので、すべての心血管病による入院を含んだものであった。他の試験では、前もって指定した対象としている治療法に関係のある心血管病による入院だけを取り上げている。
この解析では心血管病による入院の広範な定義がCAPRICORN試験の結果にバイアスを与えることになった、という仮説が立てられた。そこでこの研究グループは、CAPRICORNのデータを心不全または左室機能障害を有する患者を対象にした7つの治験における心血管系心事故(morbidity)の定義に基づいて、ポストホック解析を行った。
すべての場合に、これらの試験では臨床的重要性には無関係に主要心血管病入院だけに焦点を合わせて解析が行われている。Sachner-Bernstein博士によれば、CAPRICORNのエンドポイントは待機的な入院を除外して少なくとも心血管系の異常が疑われたすべての入院を考慮に入れたものであった。このことは心事故エンドポイントとして胸痛、息切れ、下肢の疼痛までが心血管病による入院として数えられたことを意味する。
研究グループは他の心事故エンドポイントをCAPRICORNのデータに取り入れた。その結果、死亡と心事故を複合したリスクが20〜30%一定して低減したことが示された。例えば、Eplerenone
Post-AMI Heart Failure Efficacy and Survival Study(eplerenoneの急性心筋梗塞後の心不全に対する有効性と生存率に関する試験:EPHESUS)は急性心筋梗塞後に心不全を来した患者においてアルドステロン遮断薬の効果を評価する試験である。死亡あるいは心筋梗塞、心不全、脳卒中、あるいは不整脈による入院を複合したEPHESUSのエンドポイントを用いると、hazard
ratioは0.79(0.66-0.94)となり、この所見は統計的に有意であった(p=0.006)。
心血管系エンドポイントに対する効果
定義 |
プラセボ |
カルベジ
ロール |
Hazard
Ratio |
p値 |
CV死、あるいはMI(MI後β遮断薬試験、TRACE)
|
181 |
128
|
0.70
(0.56 - 0.87) |
0.002 |
CV死、MI、あるいはHF(SAVE)
|
258 |
211 |
0.81
(0.68 - 0.97) |
0.023 |
死亡、MI、HF、あるいはCVA(AIRE)
|
276 |
226 |
0.81
(0.68 - 0.97) |
0.018 |
死亡、MI、HF、あるいは不整脈(PRAISE)
|
277 |
224 |
0.80
(0.67 - 0.95) |
0.012 |
死亡、MI、HF、CVA、あるいは不整脈(EPHESUS)
|
288 |
231 |
0.79
(0.66 - 0.94) |
0.006 |
死亡、MI/UA、HF、CVA/TIA、不整脈(COPERNICUS)
|
327 |
275
|
0.83
(0.70 - 0.97) |
0.019 |
死亡、MI、緊急再灌流(MACE) |
204 |
149 |
0.72
(0.58 - 0.89) |
0.0020 |
*中間解析
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これらの結果に基づいて、博士は今後の臨床試験では心血管病による入院としてすべてを包括した定義を避けることを示唆した。エンドポイントとして取り上げるのは、対象としている治療法によって影響を受ける可能性のあるイベントだけに限る必要がある。
さらに、CAPRICORNにおける試験デザインの向こうにあるものに目を向ける必要があると博士は指摘する。その代わりに、心筋梗塞後の患者にとって有益なものは何かという観点からCAPRICORNのデータを見直さねばならないというのである。
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