心臓再同期療法(CRT)と植え込み式心臓除細動器(ICD)の併用療法は症状を改善し、不整脈を減少させる。しかし、Stevenson博士の言によると、この併用療法がすべての患者で病状の進行を抑制するという確証はない。
NYHA III度またはIV度の患者でCRTが単独で著明な心機能の改善をもたらすことは明らかである。米国心臓病協会(AHA)、米国心臓病学会(ACC)、および北米心臓ペーシング電気生理学会(North
American Society of Pacing and Electrophysiology)により2002年に公表された合同ガイドラインにはこのことが盛り込まれている。このガイドラインでは、薬物治療によっても症状が改善しないIII度またはIV度の心不全患者では両室ペーシングが勧められている。これらの患者はQRS幅が少なくとも130msecあり、左室駆出率が35%以下であることが条件とされている。
しかし、これらすべての患者がCRTとICDの両者を必要とするとは限らない。ICDを併用することによって恩恵を受ける患者の割合は限られたものである。虚血性心不全を有する患者には有効である可能性があるが、臨床試験によって、非虚血性の心筋症患者における大きな有効性は証明されていない。さらに、虚血性心不全患者すべてに両室ペーシングの適応があるとも限らない。これらの患者で、すべてに植え込みが成功するわけでもない。
再同期療法の有効性は明らかである。Abraham博士のグループはMulticenter InSync Randomized
Clinical Evaluation(MIRACLE)試験でこのことを明確に示した。この試験では薬物療法に比して、CRTによって臨床的な状態に63%という驚くべき改善が示された。Abraham博士は、両室ペーシングが安定して行われており症状の改善がみられたこれらの患者においてもICDの追加は必然のものと信じている。このことは死亡率改善効果をみれば明らかである。

しかし一方で、ICDが左室機能障害と心不全を有するすべての患者にも有効であるかどうかに関しては異論がある。Multicenter
Automatic Defibrillator Implantation Trial-II(多施設共同自動式除細動器植え込み試験
II:MADIT II)試験では左室機能障害と心不全を有する患者に予防的にICDを使用することが検討され、総死亡が31%減少したことが示された。しかし、この試験における絶対的死亡率は非常に低く、多くの登録患者がICDにより恩恵を受けたとは考えられない。
もう一つの問題は、既報のICD試験に登録された患者は大部分がI度またはII度の心不全で、多くが虚血のリスクを増大させかねない別の危険因子を有していたことである。恐らく試験参加者でIII度またはIV度の患者は10%程度であったであろう。したがって、III度またはIV度の心不全患者に対するICDの使用を指示できるデータは十分とはいえない。例を挙げれば、MADIT
II試験ではIV度の患者は除外されており大部分はI度の患者であった。

冠動脈疾患による心不全を有する患者はCRTとICD併用治療によって自覚症状が改善し、生命が延長する可能性はある。しかし、これらの患者はごく一部分の患者である。一方、非虚血性心疾患を有する患者におけるCRTとICDの有効性に関してはよく知られていない。Asymptomatic
Non-sustained Ventricular Tachycardia(無症候性非持続性心室頻拍:AMIOVIRT)試験ではアミオダロンとICDの効果が比較されたが、4年間の総死亡は両者で変わりないことが示された。同様に、Cardiomyopathy
Trial(心筋症試験:CAT)ではICDの植え込みが拡張型心筋症で左室機能障害を有する患者に有効であるというエビデンスは示されなかった。
AMIOVIRTもCATも非常に大規模な試験ではないが、今、非常に大規模な無作為試験が進行中である。Sudden
Cardiac Death in Heart Failure Trial(心不全における心臓突然死試験:SCD-HeFT)は薬物療法、薬物療法とアミオダロン、および薬物療法とICDの3者を比較するものである。対象は虚血性および非虚血性心筋症である。今までに2,500例の患者が登録されたこの試験の結果は何も報告されていない。
今のところ、CRTを受けている非虚血性の患者は同時にICDの植え込みが必要であることを示すデータはない。虚血性心筋症を有する患者の内比較的少数で、ICDの追加が有効な場合がある。しかし、最近のデータではICDがCRTを受けた患者のすべてに有効であるという考えは支持されていない。
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