心筋梗塞の後で左室機能障害と心不全を有する患者では、ACE阻害薬とβ遮断薬が治療に優先されている。これらの治療は有効ではあるが、なお心有病率と死亡率は高い。
最近これらの患者にさらなる改善をもたらすための努力が続けられてきたが、成果は上がっていない。しかし、期待できる治療法の一つとしてアルドステロン遮断薬の使用がある。最近の研究でアルドステロン遮断薬は左室機能障害による重症慢性心不全を有する患者の有病率と死亡率を減少させることが示された。研究の対象となった一つのアルドステロン遮断薬はスピロノラクトンである。Randomized
Aldactone Evaluation Study(無作為アルダクトン評価試験:RALES)では、スピロノラクトンがACE阻害薬を服用している心不全患者で死亡率を30%減少させた。
もう一つの有用性が期待される薬物は選択的アルドステロン遮断薬で、米国では高血圧の治療にすでに認可されているeplerenoneである。Pitt博士のグループは、eplerenoneが心筋梗塞の後で左室機能障害と心不全を有する患者において有病率と死亡率の両者を低減させるのではないか、という仮説を立てた。
この仮説を検討するために、急性心筋梗塞を有し左室駆出率が40%以下で心不全が明らかな患者6,600例が登録された。患者は至適薬物治療を行った上で、eplerenoneとプラセボに無作為に割り付けられた。Eplerenoneの用量は1日25mgで最大1日50mgまでの増量が行われた。さらに、すべての患者は至適薬物治療を受けていたが、これらはACE阻害薬、β遮断薬、利尿薬、アンジオテンシン受容体遮断薬、および冠動脈再灌流法などであった。
この試験の主要エンドポイントの一つは総死亡であった。Pitt博士はeplerenone群で有意に死亡が少なかったと報告した。平均16ヵ月の追跡期間中にeplerenone群で478例、プラセボ群で554例の死亡が認められ、相対的リスクは0.85(95%CI
0.75-0.96、p=0.008)であった。

もう一つの主要エンドポイントは心血管系の死亡と急性心筋梗塞、心不全、脳卒中、不整脈による入院の複合であった。ここでも心血管系死亡または入院はeplerenone群で相対的リスクが0.87(95%CI
0.79-0.95)をもって少なかった。
EPHESUS: 主要エンドポイント
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プラセボ
(n=3,313) |
Eplerenone
(n=3,319) |
相対的リスク
(95%CI) |
p値 |
すべての原因による死亡 |
554 |
478 |
0.85
(0.75-0.96) |
0.008 |
心血管系死亡と入院 |
993
|
885 |
0.87
(0.79-0.95) |
0.002 |
原典:Pitt et al, N Engl J Med 2003; 348:
1309-21 |
Eplerenoneはあらゆる原因による死亡またはすべての入院(8%の減少、p=0.02)、心臓突然死(21%の減少、p=0.03)、心不全による入院(23%、p=0.02)など多くの副次的エンドポイントに関してもプラセボに優った。
高カリウム血症がeplerenoneの副作用として報告された。重症高カリウム血症の発生率はプラセボ群で3.9%であったのに対して、eplerenone群では5.5%であった(p=0.002)。低カリウム血症はeplerenone群で8.4%、プラセボ群で13.1%であった(p<0.001)。
これらの所見から、至適薬物治療にeplerenoneを追加することによって、急性心筋梗塞で左室機能障害と心不全を有する患者で有病率と死亡率が減少することが示唆される。この成績は、心筋梗塞後の多くの患者はβ遮断薬やACE阻害薬に加えてアルドステロン受容体遮断薬を服用したほうがよいという示唆を強く支持するものである。
この試験は2つの比較試験ではないが、Pitt博士は、eplerenoneとスピロノラクトンは同程度のアルドステロン遮断作用をもたらすと考えられる、と語った。しかし、副作用のプロフィ−ルは異なる可能性がある。スピロノラクトン治療は、多くの副作用の中でもインポテンス、女性化乳房、および乳房痛などが著明であった。EPHESUS試験では女性化乳房やインポテンスなどの増加はみられなかった。博士は、この違いの故にeplerenoneはアルドステロン遮断の有効性をさらに多くの患者に広げる可能性をもつ、と語った。
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