葉酸塩治療はステント内再狭窄を増加させる:Folate After Coronary Intervention Trial(冠動脈インターベンション後の葉酸塩試験[FACIT])
Folate Therapy Increases In-Stent Restenosis: Results from the Folate After Coronary Intervention Trial (FACIT)
Helmut W. Lange, MD
Kardiologische Praxis
Bremen, Germany

Homocysteineが動脈硬化を促進することはすでに明らかで、冠動脈疾患を発生するリスクの増加と密接な関係がある。最近、homocysteineが経皮的冠動脈形成術(PTCA)後の再狭窄と同じ機序で動脈に対して多くの影響を与えることが示されている。このため、homocysteineがPTCA後の再狭窄の発症に関係すると考えている研究者もいる。しかし、再狭窄における心臓病危険因子の役割に関しては種々の異なった意見が報告されている。あるデータはhomocysteineが再狭窄を発症させることを示すが、別のデータはそれを否定している。

水溶性ビタミンである葉酸はそのhomocysteineに対する影響という点から、過去1、2年の間に多くの注目が寄せられるようになった。葉酸をコーンフレークのような栄養物に加えると血中homocysteineレベルが急速にしかも確実に低下する。

PTCA後の再狭窄を抑制するために葉酸を用いることができないかということに興味が持たれた。Swiss Heart Studyでは葉酸とビタミンB6、B12の投与によってhomocysteineが30%減少し、血管形成後の再狭窄発生率が50%低下することが示された。これらの結果は2001年度にNew England Journal of Medicineに報告された。

今日ではこれらの試験結果に基づいて、最初の再狭窄の後であるいはそれを阻止する目的で患者に葉酸を投与する決断をしてもよいと考えているインターベンショニストが多い。しかし、Folate After Coronary Intervention Trial(冠動脈インターベンション後の葉酸塩試験[FACIT])の結果では葉酸は無効であり、再狭窄のリスクをもつ患者には有害ともなりかねないことが示された。

今回のACCにおいて、Lange博士は冠動脈ステント留置が成功裏に行われた636例の患者を登録した2施設での試験結果を報告した。患者は無作為に葉酸塩とビタミンBを6ヵ月投与した群とプラセボ群に割り付けられた。ビタミン群の患者には葉酸塩1.2mg、B6 48mg、B12 0.06mgが投与された。すべての3ビタミンを含んだローディングドーズを静脈内に投与した後、経口的に6ヵ月間のビタミン投与が続けられた。

FACITの主要エンドポイントは管腔最小内径と6ヵ月における再狭窄率で、副次エンドポイントは心筋梗塞や標的血管の再灌流などの主要臨床有害事象であった。

予期せぬことに、Lange博士のグループの得た結果は予測されていたものと全く逆で、葉酸はステント内再狭窄の発症に有害な影響を与えるというものであった。

ステントが留置された動脈の最小径は、葉酸とビタミンBの投与を受けた群でより大きくはなかった。平均最小管径は、ビタミンの補充療法を受けなかったコントロール群の1.74mmに対して1.59mmであった(p<0.01)。

さらに、再狭窄率は葉酸後に高かった。ビタミン群では再狭窄は35%にみられたが、プラセボ群では27%であった(p<0.05)。標的血管の再灌流はビタミン群で16%に施行されたが、コントロール群ではわずかに11%であった(p<0.05)。


FACIT:結果

 
葉酸塩
コントロール
p値
管腔最小内径
(主要エンドポイント)
1.59
1.74
<0.01
再狭窄率
35%
27%
<0.05
標的血管の再灌流
16%
11%
<0.05
Loss指数
(Late loss/
acute gain)
16%
51%
<0.05
 


Lange博士はFACITはビタミン補充療法が必ずしも有効でなく、時には有害となりうることを示す数少ない研究の一つであることを認めている。この結果から、ビタミンの複合はhomocysteineを低下させるにもかかわらず標的血管の再灌流の必要性とステント後の再狭窄を増加させることが示唆される。

これらの結果に基づいてLange博士は、最近冠動脈のステント治療を受けた患者ではこれらのビタミンの補充療法は避けるべきであることを勧告した。

もう一つの疑問は、確立した冠動脈疾患を有する患者で有害事象発生の二次予防に葉酸塩の補充が有効かどうかということである。現在進行中の複数の大規模試験ではこの点に関する検討が行われている。博士はFACIT試験はこの点に関して何ら結論を与えるものではないと慎重な態度を取っている。しかし、この試験のネガティブな結果は、少なくとも経過中に有害事象が増加する可能性を示唆するものである。