パクリタキセルやsirolimusのような再狭窄を予防する可能性のある薬物でコートされたステントの有効性と安全性に関しては、精力的に研究が行われている。特に、ステントコーティングはゆっくりと溶解し長期にわたって薬物を溶出する重合体(ポリマー)によって行われる。
薬物デリバリーのもう一つの方法として、ポリマーの存在なしにパクリタキセルが脂肪に親和性を有するという特性を利用する方法がある。この方法はメタルステントを用いるもので、内腔と反対側にパクリタキセルコーティングをするものである。
ヨーロッパとアジアで行われた試験で、この方法によって冠動脈病変に留置したステント内再狭窄の発生頻度が減少する感触が得られた。そこで、米国でパクリタキセルコートステントとメタルステントの大規模で無作為の比較試験を行い、上記の所見を再現させる試みがなされた。
DELIVER試験は直径2.5〜4mmのネイティブ冠動脈の新しい病変の治療に対するパクリタキセルでコートされたステントの有効性と安全性を検討するために行われた。この試験のスポンサーはGuidant
Corp.とCook, Inc.などである。
この試験の主要エンドポイントは270日目の標的血管不全であった。標的血管不全とは、死亡、心筋梗塞、標的病変または血管の再灌流を複合したものをいう。主要2次エンドポイントは240日目における血管造影で認められるステント内2元的再狭窄であった。
O'Neill博士は1,041例の患者における成績を報告した。患者の平均年齢はおよそ62歳、70%が男性であった。すべての患者はステント治療を開始する前にアスピリンとclopidogrelの投与を受けた。治療中はヘパリンが投与された。患者の中にはオペレーターの判断で糖蛋白(GP)IIb/IIIa阻害薬の投与を受けた者もいる。治療後には毎日アスピリンが少なくとも1年間、clopidogrel
75mg/日が少なくとも3ヵ月間投与された。
この試験の結果、パクリタキセルステントによって内膜の線維性増殖が非コーティングステントに比して有意に減少することが示された。しかし、この効果の程度は大きくはなく、前もって決めたエンドポイントを満たすものではなかった。例えば、標的病変の再灌流施行頻度はパクリタキセルコートステント群で8.1%、むき出しのメタルステント群で11.3%であった(p=0.092)。同様に、血管造影上の2元的再狭窄はメタルステント群では22.4%であったのに対してパクリタキセルコートステント群では16.7%にみられた(p=0.149)。
270日目における標的血管不全はパクリタキセルコートステント群で11.9%であったが、メタルステント群では14.5%であった(p=0.128)。
DELIVER:270日までの主要臨床イベント
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ACHIEVE™
(n=517) |
ML
PENTA (n=512) |
*p値 |
死亡 |
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1.2%
(6) |
0.4%
(2) |
0.8%
(4) |
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1.0%
(5) |
0.2%
(1) |
0.8%
(4) |
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8.1%
(42) |
1.2%
(6) |
7.0%
(36) |
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11.3%
(58) |
1.2%
(6) |
10.2%
(52) |
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1.6%
(8) |
0.0%
(0) |
1.6%
(8) |
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1.4%
(7) |
0.4%
(2) |
1.0%
(5) |
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MACE |
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TVF** |
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* 階級値
** ITT集団 |
試験の結果からは少なくとも、この患者群でパクリタキセルコートステントは安全に使用できるということはいえる。パクリタキセルコートステントとメタルステント両者で死亡率は1%、30日目の主要臨床的有害事象の頻度も1%であった。ステント内血栓症と動脈瘤の頻度はそれぞれ0.4%と0.9%であった。
前もって決めたエンドポイントが達成されなかった理由は明確にされていない。パクリタキセルとGP IIb/IIIa阻害薬との間に薬物間のインタラクションが存在する可能性もある。この試験では約64%の患者がステント治療中にGP
IIb/IIIa阻害薬の投与を受けた。
さらに、パクリタキセルの量を増加すれば有効性が改善する可能性もある。O'Neill博士は、今後この処方の至適用量反応の詳細な検討に焦点を合わせた研究を行う必要があると語った。
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