Protagonist:CURE試験は急性冠症候群を有する患者12,562例を対象にして、clopidogrel治療の短期と長期の有効性を無作為二重盲検でプラセボ群と比較した試験である。患者は初期のローディング用量としてclopidogrel
300mgまたはプラセボが投与され、その後、両薬とも75mgが1年間引き続いて投与された。
CURE試験の主要エンドポイントは組み入れ後1年間における心筋梗塞、脳卒中、心血管死の発症を複合したものである。試験の結果から、実薬によってこのエンドポイントの相対的リスクが20%減少したことが示された(P
= 0.00009)。
CURE試験の主要な有効性を示す結果
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Clopidogrel /
アスピリン
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プラセボ /
アスピリン
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相対的リスクの減少
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心筋梗塞
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5.2%
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6.7%
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23%
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(ST上昇を伴った心筋梗塞)
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1.9%
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3.1%
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40%
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脳卒中
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1.2%
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1.4%
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14%
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心血管死
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5.1%
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5.5%
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7%
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主要エンドポイント(心筋梗塞、脳卒中、心血管死の複合)
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5.1%
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5.5%
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7%*
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*P = 0.00009
統計解析によると有効性はローディング用量を投与した後2時間ですでに明らかであった。この結果はローディング用量投与後に血小板抑制が急速に上昇することを示した基礎研究のデータともよく一致する。
この効果は経皮的冠動脈インターベンションを受けた患者でも内科的治療だけを受けた患者でも等しく認められた。ステント治療を受けた患者では主要エンドポイントの相対的リスクの減少は44%であった。
この効果はリスクが低い、中等度、高いにかかわらずすべての患者群で広く認められた。リスクスコアが低い患者と中等度の患者では絶対的リスクの減少は1.6%であり、ハイリスクの患者では5%であった。
本薬の有効性はヘパリン、アスピリン、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、血管形成術、バイパス手術など患者に行われている標準治療に関係なく常に一定してみられた。
IIb/IIIa拮抗薬に関して行われた種々の大規模臨床試験では非常に異なった成績が発表されている。IIb/IIIa拮抗薬はインターベンションを加えた患者では明らかに有効である。6つのインターベンション試験のメタ解析で、14,706例の患者を対象にした解析では30日間で死亡または心筋梗塞の発生が著明に減少したことが示されている(8.7〜5.6%)。
一方、IIb/IIIa拮抗薬の急性冠症候群に関する通常の臨床試験では有効性はほとんど認められていない。31,000例を対象にしたメタ解析では相対的リスクの減少は9%にとどまっている。
さらに、この効果は一定しない。例えば70歳以上の患者では効果が認められないし、女性では死亡と心筋梗塞の発生は15%有意に増加している。これらの所見はclopidogrelに関するCURE試験の成績と大きく異なるものである。CURE試験では50以上のサブグループが検討されたが、すべてにおいて有意なリスクの減少が示されている。
IIb/IIIa拮抗薬に関しては出血が62%有意に増加したということも問題となっている。これに対して、CURE試験においてみられた出血の増加はIIb/IIIa拮抗薬のすべての試験でみられたものよりも少ない。したがって、後になって経皮的冠動脈インターベンションが必要となるような患者の治療を最初からIIb/IIIa拮抗薬で開始すると、実際に総体的には有害となりかねない。
Antagonist:ClopidogrelもIIb/IIIa阻害薬も非常に有効な治療法であるが、患者の経過を最善に保つにはそれぞれの薬物を正しく使う必要がある。
すでに公表されているガイドラインでは急性冠症候群に経皮的冠動脈インターベンションを行う場合にはIIb/IIIa阻害薬を投与することになっている。IIb/IIIa阻害薬が用いられた広範なインターベンションの臨床試験で、劇的で見過ごすことのできない、その上、常に一貫した有効性が認められる。死亡と心筋梗塞の減少は50〜70%の範囲である。
IIb/IIIa阻害薬とclopidogrelが急性冠症候群で直接的に比較されたことはない。しかしながら、現在までに報告されているデータをみるとIIb/IIIa阻害薬は経皮的冠動脈インターベンションに際してclopidogrelより有効性が高いように思われる。
一方、IIb/IIIa阻害薬はすべての場合に有効であるとは限らない。本薬による治療の相対的有効性はリスクの高い患者で増大する。リスクを層別化するのに最もよい方法はおそらくトロポニン値であると思われる。トロポニン値によって特に治療が有効と思われる患者が識別されるという意見が多い。
PRISM(Platelet Receptor Inhibition for Ischemic Syndrome [虚血症候群に対する血小板受容体の抑制])試験ではトロポニン陽性の患者で、30日間に死亡と心筋梗塞が70%減少したことが示された。興味あることに、この有効性は再灌流の成功、不成功にかかわらず認められている。それに対して、clopidogrelではマーカーの陽性、陰性による効果の違いは認められていない。

IIb/IIIa阻害薬による治療は糖尿病患者においても有効である。今急速に増えつつある糖尿病患者の急性冠症候群の治療に抗血小板療法は劇的な効果をもつ。最近行われた1つのメタ解析では死亡率がおよそ25%減少することが示唆されている。Clopidogrelに関する最も大規模な試験においても糖尿病患者の死亡率の減少は7%にとどまっており、統計的な有意性はみられていない。
TACTICS(Treat Angina with Aggrastat and Determine Cost of Therapy
with an Invasive or Conservative Strategy [Aggrastatによる狭心症の治療と侵襲的および保存的治療の経費])試験で、インターベンションを行う際に、IIb/IIIa阻害薬を併用することを支持する最も新しいデータが示されている。
TACTICS試験では侵襲的治療と保存的治療を行う際に、バックグラウンド治療としてIIb/IIIa阻害薬を用い、臨床的な有効性が評価された。この際、早期から心筋梗塞の有意な減少がみられ、臨床試験で確かめられたIIb/IIIa阻害薬の有効性が、臨床的実践の場でも通用することが示唆された。
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