炎症、動脈硬化、そして急性冠症候群
Inflammation, Atherosclerosis and Acute Coronary Syndromes

Attilio Maseri
San Raffaele Hospital
Milan, Italy


何年も前から動脈硬化の粥腫やプラークに炎症が存在することは知られている。プラークの不安定化には弱体なプラークの機械的な破裂または血管壁の炎症活性などがきっかけになると考えられる。血管壁の炎症によって、血栓形成、血管収縮、血小板や炎症性白血球の結合を促進する接着分子の発現、内皮細胞の剥離に関与するメタロプロテアーゼの発現、マトリックスの変性、プラークの断裂などが起こる。不安定狭心症患者における全身的な炎症マーカーとしてはリンパ球、単球、および好中球の活性化、あるいはCRP、インターロイキン‐1β、およびインターロイキン‐6などの可溶性マーカーがある。

しかし、広く信じられている概念とは異なって、活動性の炎症の存在は不安定狭心症と急性冠症候群とは相関したが、動脈硬化自体、あるいは心筋の虚血や壊死とは相関がみられなかった。

CRPは半減期が長いことから炎症に関しては最も信頼のおけるマーカーの1つといえる。それにもかかわらず、CRPのレベルと動脈硬化または虚血との間に相関はみられなかった。一方、トロポニン値が陰性の場合でも心筋梗塞予後に関しては独立した指標となる。さらに、不安定狭心症で入院治療を受けた患者が退院する時にCRPレベルが高値を示す場合には、退院後1年間の無事故生存率が低いことが明らかであった。

これらの患者で血管の炎症を来す原因は明らかでなく、多くの可能性の検討が続けられている。この中にはバクテリア、ウイルス、酸化剤、毒素など感染性、非感染性の要因が含まれている。さらに、Tリンパ球の活性化をはじめとする免疫学的刺激に対してだけでなく、血管傷害や心筋壊死に対しても炎症反応が亢進することがあると考えられる。この分野の研究が続けられ、炎症の原因と冠動脈内におけるその局在が解明されれば、新しい治療の道が開かれると期待される。